創作

 今は新作長編と二ヶ月に一本の短編小説の連載の執筆に追われている。これでも落ち着いた方で、二十五歳で賞を頂いた直後は編集社の人は新作を急かしてきたし、連載も月二本くらい書いていた。

「お姉ちゃんさ、仕事楽しい?」

 そう聞いてきたのは一番下の妹、鈴である。どうやら彼女は会社を立ち上げたいらしく…と言っても、何も分からないままだ。

「楽しいよ。今はね」

 苦労時代の私を裏切らないためにも、そう言った。

「私も楽しい仕事がしたいんだよね」

 誰でもそうだろ、と思ったが、口には出さなかった。四年前、私が鈴と同じ歳の時はまだ売れていなかったし、小説だけでご飯を食べられはしなかった。

「目標が、いや夢があれば楽しいんじゃないか

 な?」

 私が口にすると、彼女はニヤリと笑った。

「それ、台詞だよね?」

「え?」

「ほら前々回くらいの連載の"今日は"だっけ?」

 恐らくもっと前だったと思うが、確かに私の短編小説でそんな台詞を書いた気がする。

「すごいね。よく覚えてるよね」

 すると、また彼女はニヤリと笑った。

「あれ読んで、会社立ち上げたいなって思った

 んだもん」

 そう言ってリビングを出ていく彼女を目で追って、私は唖然としてしまった。最近、自分の仕事に自信を持てていなかった理由が分かった気がした。自分のことに精一杯で周りに目が向けられていなかったのだ。私の作品がきっかけだなんて思いもしなかった。感動してしまい目が潤む。それをバレないように袖で拭い、創作を続けた。

「それが、私のきっかけだったんだよ」と。

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