魔法の数字

 朝、ニュースを観ていた。この家では大体三番目に家を出る。四人中一人は家で一日を過ごすので実質最後ということになる。

「今日一番運勢がいいのは…」

 聞き慣れた台詞と声をいつものように凝視してしまう。

「やぎ座のあなたです!」

 私じゃないんかい、

「そして、今日最も運勢が悪いのは…」

 なんで悪い方もやるんだろう、

「ごめんなさい、しし座のあなたです」

 私かい、どんなモチベーションで一日過ごせってんだ。今日は授業も多くとってるし、お昼は友達とランチだし、その他諸々。大学院生も忙しいのだ。

「そんなあなたに、今日のラッキー数字です」

 なんか"ラッキー数字"ってダサくない?といつも思う。せめてラッキーナンバーがいいなと。

「31!おひつじ座のみなさん、身の回りのラッ

 キー数字を探してみて下さいねー」

 また言ってる、何度ダサいと思わせるつもりだ。そう簡単に31なんて見つからないでしょ。

「行ってきまーす」

 二階に居る姉に声をかけて家を出た。


 私はいつも電車を利用する。大学の目の前に駅があるのだ。いつもの様に待ち、いつもの電車が来る。乗り込もうと手元のスマホに目をやると、時刻は八時三十一分を記していた。

 大学に着き、いくつか講義を受けランチの時間となった。

「おまたせー」

 手を振りながら近づいて来る彼女は千紗(ちさ)という名で私とは高校からの同級生である。

「全然待ってないよ」

「えー本当に?待ったんでしょ」

「ほんとに。ほんとに待ってないからね」

 と、お互いに意味のない会話をしているという自覚を持ちながら会話を続ける。

「それにしてもごめんね。急に会いたいなんて

 言って」

「全然いいの。逆に会いたかったし。で、どこ

 行く?」

 と、千紗は優しい。だが食欲は思っていたより旺盛のようだ。

「あぁよさそうなお店あったの。私食べログす

 ごい好きで使ってるんだけど、結構星も多く

 て」

「た、食べログ?やってる人初めて見た。別に

 批判してる訳じゃないよ。ただ初めて見たっ

 てだけ。良いお店ってどんな感じ?」

「はは、ランチに特化してるらしいんだけビュ

 ッフェ?バイキング?形式なの」

「そうなんだー。良いね。っていうかさ、ビュ

 ッフェとバイキングって何が違うの?」

「なんなんだろうね、そういうのって一生謎の

 ままだよね」

「一生は言いすぎでしょ」

「そうかな、ははは…」

 なんだこの会話。つまらない。とお互いに思っている。でも高校時代からこういう感じである。そんなこんなで着く。

「当店はビュッフェ形式でお楽しみいただいて

 おります。メニュー表をご覧になっていただ

 き、コースの方をお選び下さい」

 二人で返事をし、メニュー表に目をやる。

「全部良さそうだね」

「確かに、野菜がどれも美味しそう」

「これ、ぜんぶの野菜食べられるコースってこ

 と?」

「そうなんじゃない」

「一五五〇円?高いのかな?」

「どうなんだろう、ビュッフェって相場分かん

 なくない?」

「あ、ビュッフェって言ってる」

「だってさっき店員さんが…」

「言ってたよね。ははは…」

 なんの話?ここらで会話を終えた方がいい気すらしてきた。お会計に向かうと合計金額は三一〇〇円、大変満足である。

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