小説

 小さいころから本を読むのが好きだった。小学生のときも中学生のときも友達がそんなに多いわけではなかったので、一日中本を読んでいる日もあった。友達がゼロで本だけが友達だったのね、と舐められないようにいつも言う。友達が"多いわけではないだけ"である。それでも本に救われたのは事実だ。自分の目の前にまっしろな紙があったとしても、こんな風にはできない。人々を愉しませたり、哀しませたり、時に人々の背中を押したりもする。なんでもファンタジーに見える。私の人生もだ。高校、大学で文学を専攻して念願だった小説家になった。二十五歳で大きな賞も頂いた。私が今まで読んだどの小説よりも驚いたし、感動した。それでいて欲も出た。が、それから三年、賞に恵まれることなく年に一作か二作発表した。なにかが足りないまま二十八歳になってしまった。こんな人生、たぶん正解じゃない。

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