第3話

そうこうして先生の説明が終わり学生たちは帰路に就いた。

世野マオもその中の一人だ。


揺らぐバスの中、彼は携帯を手に取り家にいる母さんにIineを送った。


「何か食べたい物はあるか?」


早速ズイイインと振動と共に返答が来た。


「母さんはカレー、カレーが食べたいでーす!」


子供か!を内心に返事を送った。


「わかった」


彼は携帯を仕舞って窓越しに咲いてる花のような雲を見上げた。


「元にいた世界の空はこれよりずっと青かったな」


家事をするのは馴れている。

産まれた時に父はいなかった。

その時見たのは何故か涙を流す母さんの顔。


産まれて5ヶ月には既に家事を手伝っていた。

今は売れっ子作家になった母さんの為、彼は魔法の練習に伴い家事もしている。


今日も今日とて小説に専念している母さんと中学生の妹の為、彼はスーパーに向かうのだった。


*


各種の野菜とルーで詰まったエコーバックを手に道を歩いてた彼の足下にリンゴが転がって来た。


「リンゴ……」


転がるリンゴを拾い前を見ると制服を、ズボン着た男の子(?)がチャラそうな男に迫れていた。


「可愛いじゃん、カラオケ行こうぜ、何もしないから」


その周囲には食材が落ちていた。

マオはそれを一つ一つ拾っていた。


「これ、落ちていたぞ」


マオは制服を着た学生に話しかけた。


「なんだよォてめぇは!」


話を聞かず拳を振ってくる男にマオが投げた時速250kmの高速リンゴがチャラ男の顔を叩いた。いや、打たれた。

木っ端微塵に砕かれたリンゴとその果汁にまみれたチャラ男は目を白黒させて倒れた。


同時にマオは男の子の手を取り走って去っていた。


*


3分後


「あれ、俺は一体……誰だっけ……何かペタペタするな」


*


路地を曲がった先に彼らは肩で息をしていた。


「ふう、これお前のだろう?」


まだ魔法が使えない。

今は逃げるしかなかった。


「あ、ありがとう」


「悪いが、リンゴは失くなったな、代わりにこれ」


マオは彼の手にじゃがいもを置いた。

そして何事もなかったように去って行くのだった。


「あ、ありがとう……」


男の子の声が虚しく響いた。

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