第49話 不本意ながらシクルに協力

シクルにもらったドラゴンの鱗を使い、火剣三男アグニを倒した。


次はターニャの救出だ。残る火剣兄弟の実力が分からないから、シクルなら大丈夫と思っていても焦ってしまう。


数分の全力走行で盗賊団の砦に到着、そこで驚きの光景を見た。



木を組んで作っていたと思われる砦の門が破壊されている。千切れた人間の姿も見える。


シクルの怒りが伝わるような破壊のしかただ。


人影が幾つも見えたが、みんな血を流して倒れている。門から一番近いやつは、右肩から先が吹き飛んでいる。


怒ったシクルの仕業だ。


砦に入った直後、右側に見覚えのある男達。ターニャの誘拐実行犯が氷の杭で地面に縫い付けられていた。

そのうめく男達の周りにも剣で切られたり、氷の魔法でどこかを貫かれた男達が20人くら倒れていた。


ターニャが乗っていた馬車も車輪が凍らされている。



その前にワンピースを着せられたターニャと、ターニャの腰を抱くシクルがいた。右手には水色の剣を持っている。


ターニャは太ももが見えて裸足。恐らく裸の上にシクルが服を着せたのだろう。


そして彼女達の前には炎をまとった剣を持つ男が2人いた。間違いなく「火剣」の長男と次男だ。


横40メートルくらいの楕円の広場だ。



「そらっ、俺の炎を食らえ!」

「若い女をさらうっていうから、アグニより先にヤろうとしたのに面倒くせえ」


「2人とも捕まえてボロボロにして売ってやる」

「だな!」


ごおおおおお、ぼわっつ。 キイイイイン。氷の壁を作ってシクルが炎の攻撃を防いでいる。


「火剣兄弟」に一方的に攻められているように見えるが、なぜか安心した。


「ターニャは無事だ。それにシクルに守られているなら大丈夫だ」


シクルに余裕がある。それに雑兵は、ほぼ無力化されている。私に気付いたシクルが口を開いた。


「早かったわねユリナ。良かった。この人たち、徹底してターニャを攻めてくる。守れるけど戦いにくいから、あなたを待っていたの」

「そりゃどうも。片方を受け持てばいいのね」


「そう。私が右側の長男を早く片付けるから、左の次男をお願い」



「バーン兄貴、なめられているぞ」

「イフリー、お前も弱そうなお姉ちゃんで十分だとさ」


私達の会話が自動的に挑発になり、私と火剣次男イフリー、シクルと長男バーンの対戦になった。


「シクル、ターニャを抱えたままで大丈夫?」

「余裕。死んでもターニャは守るし・・」



私は次男イフリーと向かい会った。倒したアグニも含め、三兄弟は身長180センチで右手に火をまとった剣を持っている。三つ子かも知れない。


「おい、お前がユリナか」

「そうよ」

「弟のアグニはどうした」


「・・もちろん倒した。ターニャを犯すと言うから、心臓も頭も潰してやったわ」

「てめえ!」


足止めでいい。だから強化外骨格変身に使う鱗はドラゴンパピーでいい。


取り出したのは火属性の鱗。そして火のドラゴンパピーの「流星錘」。


シクル戦で学んだ。炎属性の敵に水、氷属性が効果的に見えるが、それはこちらの地力か鱗のエネルギーが上回っていたとき。そうでない今は「火剣」と同じ火属性がベストだ。


私だけに使える理論。これに気付くように仕向けたのがシクルと思うとムカつくけど・・



「なんだユリナ、お前は火竜の血でも混じってんのか。ちゃちい炎だが、本当にアグニを倒したんなら侮れねえな」


できれば、アグニと同じく最初の攻撃で倒す。「超回復、等価交換コンボ」が見抜かれたら、炎を食らいながら長期戦に持ち込み、相手の魔力切れを待つ。


とにかく先手を取らないと始まらない。


4メートル離れた次男イフリーに攻撃するタイミングを図っていると、シクルから援護が飛んできた。


「アイスニードル」


ガギイイン。

イフリーがニードルを撃ち落とした。


今だ。


一直線にイフリーに向かって走った。


「遅い。炎鎧、炎剣同時発動!」


ザン。

『超回復』


左肩から斬られた。炎が傷口から吹き出したけど、一瞬で治った。そして鉄球付きの流星錘を投げながら走った。


「鉄球なんざ、当たんねえよ!」

「不細工だけど、私の勝ちよ」


じゅばっ。

私はイフリーに抱きついた。炎の防御スキルにドラゴンパピーの熱が負けて、接触面から肉が焼ける音がしたが、お構いなしだ。


『超回復』『超回復』


投げた流星錘がピンと張ったあと、私とイフリーを巻いて密着させた。


火属性の革ひもは焼かれることなくイフリーのアゴ、右手の甲に接触。私の足は、有機物でできた麻の服に巻き付いている。


「等価交換」パチイ!


「ぐ、あががが、なんだこりゃあ!」


イフリーが放つ炎もアグニと同じく強力だ。普通なら私クラスの人間に接近されたところで焼き尽くせばいい。


だけど私は反則だ。


「「焼かれてから」がスタートなんだよね」


今も高熱に焼かれていて「超回復、等価交換コンボ」の条件が揃いっぱないだ。


「炎鎧」の炎がぶれた隙に、イフリーの首をつかんだ。

焼かれている私は15センチは身長が縮んでいる。


「等価交換」パチッ、パチ。


「げ、あげ、かひゅっ」


イフリーの首と下顎はミイラ状態だ。


奴の剣を拾ってトドメを刺し、シクルの方に向かった。


早くターニャを受け取りたい。「火剣」2人に勝てたのはシクルのお陰だけど、やっぱり許す気にはなれない。



私の心は、そんなに広くない。


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