第48話 冷たくて熱いパンチ

シクルがターニャ救出のため盗賊団のアジトに向かった。


私は火剣三男のアグニと戦い始めた。


いきなりアグニに一発もらった。


何か他人事に感じる。


「情報通り一瞬で治った。そんな弱そうなのに、あの水のウインも倒したそうだな」


こいつの言葉、どうでもいい。


もう一度、ターニャが脱がされた服を見た。


「ターニャを犯す? ナリスの妹のターニャを」



「もっと炎を浴びせてやる」ゴオッ。


『超回復』


ダメだ。


腹が立ちすぎて、避ける気もしない。だけど怒りだけでは戦えない。


私の地力では勝つ糸口がつかめない。だから今、シクルにもらったばかりの袋の中身を使う。


ターニャのためだ。


「シクル、あなたがくれた袋の中身が分かった。ムカつくけど使わせてもらうわ」


中身は、異様な冷気をまとった鱗。


袋から取り出し、前にかざして唱えた。


「力を借りるわ。等価交換」パチッ、パチパチッ、パチッ。



バチッ。スパークする両手。


透き通るような青の鱗で埋められている。


体中が冷たすぎて、むしろ痛い。


皮膚から発する冷気が尋常ではない。静電気も出まくっている。


普通の肉で構成されている私の「内側」。見事にダメージを受けている。


諸刃の剣だ。


『超回復』『超回復』『超回復』。コールが鳴り続けている。


「何だ正体はドラゴニュートかよ。おもしれぇ。俺の火剣と勝負だ!」


私の一連の動作を終えるまでに、アグニもまた、魔力を練っていた。


普段の「私」に見えない速さで剣を振った。


「炎突」


同時に私も走っていた。


炎は凝縮された炎のドリルとなり、私の胸にぶち当たった。


『超回復』ばちい!


一瞬。破壊的絶対領域の作用で、炎を弾いた。


少し乱れた炎は、再び凝縮して、私に向かってきた。


私も接近していた。


アグニの身体に拳が届く位置まで踏み込んだ。


私は炎の向こうにいるアグニに向かって右のパンチを繰り出した。


高温と低温の真っ向勝負。


パーーーン!


高温と低温がぶつかり合い、空気が弾けた。


冷気が炎のドリルを吹き飛ばし、アグニをのけぞらせた。


同時に剣から放たれた炎が冷気に穴を空けた。


私の右手首から先、プラス腕10センが、焼けて弾けとんだ。


だけど・・


強靭なドラゴンの外骨格を利用している私は、体幹がぶれない。


攻撃するための拳をなくしたけど、構わず手を伸ばした。


炎が舞う。


極寒の体に灼熱の炎が当たって、むしろ心地いい。


シクルがくれたものは、高位ドラゴンの鱗。


「等価交換」で体に取り込み強力な「強化外骨格」を作った。


ブーストは効いてるけど、冷気が強すぎて体が破壊され続けている。


それでも、今はありがたい。


私の拳がなくなり、骨が剥き出しになった右手が、三男の左胸に触れた。


ぺちっ。「ターニャ、届いたよ」


アグニの心臓を守るミスリル合金に手首の断面が当たった。間抜けな音がした。


アグニは剣を構え直してている。

「俺の勝ちだ」



「いいえ、私の逆転勝利」


『超回復』&「破壊的絶対領域」



ぼんっ、と破裂音が響いた。


「うげ!」


アグニがうめいて、痙攣した。


私は、再構築された腕を、アグニの左胸から引き抜いた。


膝をつき、驚いた顔で左胸を見て、手で押さえてもがき出した。


もう手遅れだ。


「いでえ。ぐぞおお、何をじだ・・」


ミスリル合金の胸当てごと、左胸が破壊された。


装備も内側、要するに肋骨と心臓に向かって弾けた。


やったのは、もちろん私。


手首剥き出しパンチを打ったあと、超常現象が起きた。


手首から先をなくした私のパンチ自体は、アグニの胸に当たっただけ。


しかし、『超回復』で瞬時に再構築された右手は違う。


アグニの装備、肋骨、心臓があっても関係ない。


「その空間」に、私の右の拳が、瞬時に出来上がった。


「異物」と見なされたアグニの胸は、強制排除された。



アグニの左胸と口から血があふれ出した。


弾けた装備と骨がささくれ立って、内蔵にも飛び散っている。


「みぎでが生えてる・・。おでは何のわざにやられたんだ・・」


「えーと、気功炸裂拳?」


「なんれ、疑問形なんら・・・」


アグニの頭に手を当てて「等価交換」


栄養をいただいて、120センチに縮んだ体を元に戻した。


ドラゴンの強化外骨格は、もう剥がれた。


手の色は普段通りに戻っていた。早くも貴重な高位ドラゴンの鱗、4枚のうち1枚を消費し切っていた。



「4枚」


シクル自身も含めた残りの仇の人数と同じ数・・


これは偶然なのだろうか、少しだけ考えてしまった。


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