第46話 追跡と妨害

村の交易スペースまで戻った。

状況はギリギリだった。


ナリスのお父さんは左の胸から首に「火剣」を食らい、危険な状態だった。


村に3頭いる馬も潰されていた。


急いで『超回復』をかけ、他12人の怪我人も治した。


死人ゼロは幸い。


顔ぶれからして、戦える男を狙った。


「おじさん、ターニャと小さな子供達、どこに連れていかれたんですか!」


「南だそうだ。盗賊の砦がある」


「助けに行きましょう。手伝います」


「頼む。奴らは「1番金目のモノ」を持ってこいと言った。君なら分かるそうだ、ユリナ」


間違いない。それは、回復スキルを持つ私、のことだろう。


盗賊団のアジトは、かなり南。


こっちから行くと、途中にトレントの森がある。右回りで森の外縁部に沿った道を行くのが一番早い。


馬も治療したけど、火を浴びた直後。怖がって動けない。


みんな走った。


まずトレントの森まで走って30分。


私も入れて9人の救出隊が走り出した。


救出隊では私の足が一番遅い。だけど、到着は間違いなく一番早い。


『超回復』で身体的な向上はなくても、毎回体力も全快する。


『超回復』を5秒ごとに使って体を元の状態に戻す。


燃費無視なら、全力で走り続けられる。


スタートから10分で追跡隊の先頭を走る人を追い抜いた。すでにラビット1匹を栄養に使い切っている。


時速35キロをキープ。


トレントの森を迂回してしばらく走ると、偽商人の馬車と人を乗せた馬一頭が見えてきた。


「向こうも気付いた。けど子供だけは、ここで取り返す」


馬車を引く馬が、何十分もスピードを出し続けるのは不可能。


私が徐々に近づき、そろそろ流星錘を出そうとしたら、先手を打たれた。


馬に乗った奴が何か合図すると、馬車が突然スピードを緩めた。


そして誘拐犯の3人が、6~7歳の子供3人を連れて馬車を降りてきた。


ここで私を脅すのかと構えると、男達は、子供達を抱えたままトレントの森に飛び込んだ。


「え? しまった」


恐らく、あの地点にトレントがいる。奴らは私の足止めに、子供達を使う気だ。


子供達の方に走るしかなかった。


男達は森に30メートルほど入り、同じ木に向かって子供達を投げた。


私はトレントに向かって突っ込み、間一髪でジョンという男の子をかばった。


ざわっ。トレントの枝が目の前まで迫った恐怖で、ジョンの体が硬直している。


パッシブの『超回復』20回。


トレントの攻撃を食らう子供3人と私。治しながら撤退。


足がすくんだ3人を連れて、何とか安全な位置まで下がった。


子供を抱いたまま「等価交換」を使うと惨事が起きるので、トレントの攻撃を背中に食らいまくり。


ことさら時間がかかった。


子供3人は『超回復』で治して無傷。だけどショックで、私にしがみついている。


「馬車を追いたいけど、ここに子供達を置いていけない」


「・・ユリナお姉ちゃん」

「もう大丈夫だよ、ジョン」


「あのね、今のおじさんが、とりでにはお姉ちゃん1人で来いって・・」


救出隊の先頭の人が来るのを待って、ジョンを預けた。


体感では20分のロスだ。


再び『超回復』を利用した全開走行で誘拐犯を追った。


盗賊を砦に入らせず、街道でターニャを取り返せるかどうか、ギリギリだろう。


子供を救出するため森に入るとき、チラッと見えたターニャは、縛られていた。



私のスキルならターニャが死んでいなければ、救出できる。


だけど、命が助かるだけではダメだ。


砦の奥に連れ込まれ、蹂躙される前に解決しないと・・


とにかく誘拐犯に追い付かねば。


脚の強化材料にするため、ランドドラゴンの肉と鱗を取り出した。




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