第44話 欲深い商人

シクルに従って、ターニャの護衛をしている。といっても、今までの半月とやることは変わらない。


一緒に狩りに行って、剣か流星錘の訓練をしているだけだ。


シクルになす術なく退けられたが、攻略法は見つからない。1歩ずつ戦いかたを進化させていくしかない。


新しい武器も完成した。


村の人に頼んでいた、「有機物接触」をするためのドラゴンパピー製革ひもは全部で長短合わせて220本もでき上がった。


最短5メートル、次が10メートルと伸ばし、最長50メートルまで10段階の長さの「流星錘」を計70本作った。


なめして三つ編みにしてあり、鉄玉も投げやすいように革ひもで包んで編んである。


ナリスのお父さんによると鉄球、作業料で相場は200万ゴールドだが、行商人にドラゴンパピーの肉を半分売っただけで500万ゴールドになったそうだ。


差額を返そうとするのを固辞して、仕事をした人で全額を分配してもらった。


◆◆


5日後、村に人が増えた。


繋がりがある3つの村との交易が行われている。

月に1度、近隣4つの村で順番に開かれるそうで、今回はこの村だ。


今回はドラゴンパピーの干し肉と爪、牙を村から出したいと言われOKした。

村の人も私に許可を取る必要もないのに、義理がたい。


また、交易のついでに知らない男性も訪れてきた。ナリスの元婚約者でカールだった。


「ナリスの友達のユリナだろ。カールだ」

「よろしくカール」


彼も自分のために黙って去ったナリスを追わなかったことを悔いていた。だけど、生活が楽ではない環境で親を見捨てる訳にもいかない。


今はこことは違う村から嫁をもらい、もうすぐ子供も生まれるそうだ。


ナリスの代わりにおめでとうと、言っておいた。ナリスなら必ず言うと思ったからだ。


交易場所に行くと騒がしかった。


ドラゴンパピーの肉を巡るトラブルだった。


近くにいた村人に聞くと、目ざとい商人が原因。街でもあまり揃わないドラゴンパピー4属性の肉があるため仕入れに来たそうだ。


問題は値段。


この村の人は、いわば親戚のような3村にパピー肉が行き渡るように、ラビット以下の値段設定にしている。はっきり言って捨て値だ。


こういうパターンは普段からある。普通は商人も「身内価格」と「部外者価格」で分けていることは承知している。


今回は3人の商人が来ており、南の街から来た「マルセル商会」、北から来た「クニサ商会」は「部外者価格」でOK。共に護衛が4人で、4属性各5匹分の肉を買った。それでも相場より安いと喜んだそうだ。



しかし、南西のカスガ男爵領から来たという「スガカ商会」は横暴だ。断固として「身内価格」で売れと言い張っている。それも素材もまとめてラビット並の値段である。


荷物運びには見えない大男5人も村人に詰め寄り、険悪な雰囲気になってきた。




カスガ男爵領と聞いて、とうとう来たかと思った。


「あの、ちょっと待ってスガカ商会さん」

「何だ君は」


「ドラゴンパピーの出品者よ」

「嘘を言え。小さいとはいえドラゴンだぞ」


子供達が騒ぎだした。

「嘘じゃねえよ。ユリナ姉ちゃんは腕が細くても気功術の使い手だ」

「そうだ。弱っちく見えるけど、トレントの上位種だって殴ってやっつけたんだ」

「オーラはないけど武闘派なのよ」


ぼそっ。

「子供達、褒めてるんだよね・・」


「脅されても引かんぞ。肉と素材を出せ」

「引くも引かないもない。売らないよ」


「何を!」

「カスガ男爵家からの依頼もあるのだぞ、貴族家を敵に回す気か」

「ここまでの経費は男爵家のご子息より出ている。ドラゴン肉を出さないのなら、弁済せよ」

「女、お前が男爵家次男マルタ様のところに来い」

「そうだ、直々に弁明せよ」


どうも、カスガ男爵領から来た商人はグレーだか、護衛は「黒」。荒くれの護衛のようで言葉使いが冒険者上がりではない。私の捕縛が目的だろう。


「はいはい。私が男爵家次男が探してるユリナよ。付いてきて」


村人と離れて川沿いまで5人を連れていき、捕縛作業に入ることにした。


拷問して、情報を吐かせたい。


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