第43話 もやもやの中で

シクルが言ったことは多分本当だ。


あいつの氷魔法には手も足も出なかった。私を拘束して連れ去るのも、殺すのも自在だったのに、何もせず去った。


ターニャに迫っている危機を知らせたかったのだろう。


ナリスの生前に見せていた好意は本物だったのだろう。


だけと・・


どう納得しろというのだ。


間違いなくナリスとアリサ、モナが殺されたあの日、シクルは殺した側にいた。




借りた家の中で悶々としていると、ターニャが来た。


「ユリナさん、いいですか?」

「・・うん」


「あのあと、どうなったんですか?」

「少し戦ったけど歯が立たなかった。動きを止められ、話を聞かされた。ナリスの仇を撃てなかったわ・・」


「あっちのユリナさん、いえシクルさんでしたか。お姉ちゃんを殺した犯人だって自分で言いましたけど、最後まで優しい目をしてました」


「だけど間違いなく、シクルもナリスを死に追いやった。思い出すだけで、頭がおかしくなりそう・・」


「けどシクルさん、本物のユリナさんと会えば結果は見えていたはずなのに、何でわざわざ姿を見せたんでしょうか」


「分からない。だけど盗賊団の動きが活性化してるから、ターニャ達を守ってくれって言われた」

「信用していいんでしょうか」

「悔しいけど、あいつはその気なら簡単に私を殺せた。生かしておいたってことは、そういうことよね・・」


「お姉ちゃんとシクルさんって、どういう関係だったんですか?」


「すごく仲が良かった。私やナリスは「劣等人」と呼ばれていて、シクルは氷魔法適正Aの「優等種」。だけど強く生きるナリスにシクルの方が好意を寄せているように見えた」


「なのに、騙してお姉ちゃんを殺したんですよね」

「今日のシクルは、弁解していたよ。自分の仲間から聞かされた計画では、宝の探索なんかさせる予定はなかったって」


「ユリナさんは信じますが」

「分からなくなった」

「・・」


「だけど許せる訳がない!ナリスだけじゃない。モナもアリサも、一生懸命生きてきたのに、虫けらのように殺された」


「ユリナさん・・」

「あいつらの顔は絶対に忘れない。ナリス達が喜んでくれなくたって、絶対に復讐してやる。うっ、うっ」


「お、お姉ちゃんのために苦しまないでユリナさん。うっ、うえっ」

「うう、うううう、あああぁぁ」


◆◆


ムカつくけど、シクルは情報屋を使って、私の能力もかなり解明している。


私を閉じ込めたアイスフィールドは強力で足からお腹まで凍った。


普通なら死んでいるか、再起不能だ。


なのにシクルはターニャを守れと言った。それは『超回復』で私が復活できることを知っていたからだ。

恐らく高位魔法の威力を体感させたのだ。


そして思い返せば、アイスフィールド出すのを「火炎気功術」を使うまで待っていた。そして完封して見せた。


シクルはドラゴンパピーの強化外骨格では、氷魔法適正Aの自分に通じないことを教えたのかも知れない。


仇の中では火魔法のジュリア、光魔法のマリリが共に適正A。ドラゴンパピーの強化外骨格では力が足りないと言いたかったのだろう。



けど、そこまでは考えて、ヒントをくれたのが仇であるシクルだと思うと腹が立った。納得した自分に本当に腹が立った。



「納得できないけど、ターニャを守ることは大切だ。素直にボディーガードをやるかな」


シクルはターニャの禍根を取り除くために、カスガ男爵家の息子達、盗賊団幹部を殺すと言っていた。


ドラゴンダンジョンの5階以下に挑戦したいが、ターニャの安全を確保するまで待つことにした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る