第42話 ふざけるな。愛してたなんて言うな

シクルは仇。


ナリス達を殺した6人の中の1人だ。


なのに、ナリスの妹のターニャを守ろうとしている。


理由は「ナリスを愛していたから」なんて言いだしだ。


ジュリアが、シクルは頭が良くない、そう言っていた。


見た目、魔法適正の高さから、そう思えなかった。


けど、コイツ馬鹿だ。


「ふざけるな!」


シクルは私を無視して話はじめた。


「私、ジュリアが怖かった」


シクルは、親戚で同じ性癖のスターシャと深い関係になった。


そして、スターシャに引っ張られジュリアの仲間になった。


そんな、どうでもいいこと、言い出した。


「何が、言いたいの?」


「ジュリアが危ない人間だって分かったのは、悪事に荷担したあと。簡単に染まったスターシャとも距離を置きたかったの」


言い逃れでもする気か。


「そんなときナリスに出会った・・」


ナリスは、スキルなしの逆境にもめげず、明るく強かった。


自分には、天から与えられた才能がある。

だけど、どこか後ろ暗い。


とても眩しく見えた。


そんなことを並べていく。


「ユリナ、モナ、アリサと一緒に食堂をやりたいって夢も聞いた。私も応援したかった」


「もう口を閉じろ・・」


それは、私達のささやかな夢。


汚れたシクルが口に出していいもんじゃない・・


「ジュリアのことで悩んでいると、ナリス優しく肩を抱いてくれた」


なぜ、こんなときに笑える?


「彼女にその気はなくても大好きだった」


「なのに、殺した・・」


「あの日、私は本当にナリスを雑用係に雇うだけと聞いていた」


コイツは、言い訳を並べる。


突然、ジュリアがナリス達に崖の途中で祠を探させると言った。


自分は、驚いて凶行を止めようとした。


「けど、あなたも残酷ショーを見てただけでしょ」


「止めようとしたら、後ろにいたスターシャに何かされたの」


シクルは、首筋に何か刺された。


チクッとしたあと、しばらく身体が硬直していた。そう言う。


「そんなの信じられるか!」


ナリスの悲鳴は、聞こえたという。

その方向に、スターシャが笑いながらストーンニードルを撃つのも見えた。


そして、薬のせいで意識が朦朧として、ジュリア達の言う通りに歩いた。


そんな、言い訳ばかり。



「ダンジョンから帰ったあと、罪滅ぼしがしたくて、この村を訪れたの」


クズのくせして、なんで必死になって、私に訴える。


「なぜ、私の名前を使ったの?」


「ナリスそっくりのターニャちゃんを見たら、ナリスを殺めた6人の1人、シクルの名前を出せなくなった」


「何を勝手な」


ふざけてる。



「今からナリスの両親の前で本当の名前を名乗れ」


「ぐっ」


「私がナリスを騙して殺しましたって言え!」


「できない・・。う、うっ、うっ。ごめんなさい、ナリス、ナリス、うっ、うっ」


泣きたいのはこっちだ。


下衆が、見せる中途半端な優しさ。


最低だ。


まだ、勝手にしゃべり出す。


本当は、この村に一回しか来る気はなかった?


ターニャに会いたくて近くにいた?


「すると今度は彼女の周囲を不穏な空気が流れ出して・・」


「私のことは、どうするの」


私は復讐者。


ここで倒さなければ、シクルを殺すまで追う。


「そもそも、ターニャに危険が及んでいるのは私のせいとは思わない」


私がスキルを得る流れを作ったのは、こいつら6人。


責任は、こいつらにある。


「・・解ってる。とにかくターニャちゃんを守ってあげて」


「お前になんか指図させない・・」


「私に政治的な流れは分からない。だから、武力で不安を取り除いてくる」


カスガ男爵家の息子達、盗賊団の幹部だけは倒しに行く。


そして、その後はジュリア倒す。


勝手に決めてる。


「ジュリアを倒すのは私よ。それにマリリも残ってる」


情報はくれた。


ジュリアは北のマアミ侯爵領に帰っている。


マリリは北のスウェー聖教国を追い出された人間。


今はもう所在が分からない。


参考にしておく。



キラキラと、氷の残滓が舞い始めた。


私の足を拘束したまま、シクルはナリスの墓の方へ向かった。


そして、そのまま消えてしまった。


これだけの冷気。放置されたら、普通は死ぬ。


私のスキルが分かっていて、置きっぱなしなんだろう。


私は『超回復』の連続で、足が子供サイズまで縮んだ。やっと足が抜けた。


シクルが去って10分。


もう、どっちに行ったか分からないし、追跡を断念するしかない。



ナリスの墓に行ったら、氷で造られた花が一輪だけ添えられていた。



「・・ふざけるな、シクル」


氷の花を踏み潰そうとしたが、踏めなかった。



氷の花が、一輪だけ置かれていた。


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