第41話ふざけるな、何を言い出す

シクルは、ただの氷魔法、適正Aじゃなかった。


威力はもちろん、魔法が発動した瞬間も分からなかった。


食らったのは恐らくアイスフィールド。


半径3メートルに範囲を抑え、膝から下が凍り付かされている。


足が微動だにしない。


『超回復』普通なら、身体が凍り付く低温。


「ユリナ、勝手に話をさせてもらうわ」

「うるさい・・」


「ターニャに危険が迫っている」


「え?」


「それもユリナ絡みよ」

「なにそれ・・」


シクルは私がダンジョンから生還すると読んで、私の動向を探っていた。


奴の実家は、北方にあるノルド子爵家の分家。


同じ血筋の土のスターシャと、そこに戻るふりをして姿をくらました。


そして、近隣の街で情報屋を雇っていた。



カスガ男爵はまだ、私の回復スキルをあきらめていない。


長女の水のウインが変死し、長男ワルダーが再起不能。


だか当主は、生き残った騎士から経緯を聞いた。


策も何もない。


ただ私を捕らえ王家に差し出し、家格を上げる。そんな妄執にとらわれている。


ワルダーは実質的に廃嫡。


男爵は、当主候補となった男子2人に課題を出した。


私を連れてきた方が、次期当主。


ただ私の足取りは、消えている。


カナワ冒険者ギルドで騒ぎを起こしたあと、街から出たのかどうかすら分からない。



痕跡がない。


そこは、意図してなかった。全くの偶然。


カナワから『超回復』を使って子供の姿で脱出。それすら、カスガ男爵家の御者しか知らない。


さらに、キセの街の門前でウインと戦ったあとは、街の前の川にドボン。


追加して、滝壺のダンジョンで20日ほど過ごしている。


そしてこの村に滞在だ。期間は1ヶ月を優に過ぎている。



仕方ないから、男爵家次男のマルタが私の過去を調べあげた。そして、3人の友達の名前にたどり着いた。


水のウインがキセの街で私と戦ったと知り、潜伏するなら、その周辺と読んだ。


そしてナリスの生まれ故郷が、私が訪れる1つの候補地として、考えた。


最近、この辺りに現れる盗賊団。その幹部は南方の街ヤコノの高位冒険者崩れ。


「貴族関係者を殺めて逃げたけど、みんな「火剣」を使う三兄弟パーティーで強いわ」


「だから?」


「男爵家次男とは以前からの知り合いで、今回の探索に関わっているわ」


「なんで、私に情報を与えるの?」


「私1人では手に余るから。男爵家と盗賊団の共通点は卑怯なこと」


もし私を発見したとき、手札を増やすため、ターニャをさらう準備をしている。


「本当なの?」


「間違いない。だけど、奴らが行動を共にすることはない」


別々に攻めてくる。


だから、シクル1人でターニャを守るのが難しい。


今までに、こいつが盗賊と男爵家の偵察を合わせて5人を殺してる。さすがにおかしいと思われている。


十分にあり得ることか・・。


ただ、これはシクルに聞かされた話。


うっかり昔みたく信じそうになったけど、こいつは敵。ターニャの姉ナリスを騙して殺した奴だ。


「ナリスを殺しておいて、妹のターニャを守れとか、気違いの理論よ」


「・・ごめんなさい、としか言えない」


謝ってもダメだ。


足を拘束している氷が溶けるの待ってるけど、固いまま。


超回復がなければ、両足は凍り付いているはずた。


「シクル、あなたの行動の根拠が分からない。ターニャを守る理由を教えて」


「・・」




沈黙のあと、シクルが口を開いた。


「・・私、女の子にしか恋愛感情を抱けないの」


「え?」


「本当に好きになったのはナリスだけ」


微笑してる。


「だから妹のターニャを守りたいの」


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