第40話 VS氷のシクル

私の偽物はクソ女だった。


氷魔法適正A、天才と呼ばれるシクル。


銀色の長い髪が、透き通るほど白い肌を一層引き立てる。


悪意を隠し、私達に近付いてきたジュリア達6人。


その中でも、ことさら私達に親切にしてくれた。


特にナリスと話が合って、屈託がない笑顔を見せていた。


ナリスを見る目に、普通の友情以上のものを感じる。


それほど仲良しを演じていた。


だから許せない。


美しいと思った、あの顔。悪魔の仮面。


切り裂きたい。


「シクル、ナリスはあんたを好きだった」


「無能」と言われた私達にも良くしてくれた。

あれが演技だったとは、今でも信じられない。


「・・私もナリスが好きだった」


「馬鹿が、なにが好きだっただ。だったらなんで殺した!」


「う・・」

「あんたら6人が、ハメたんだよ」


「わ、私は・・」


「スターシャに胸を貫かれたナリスを見て、面白かった?」


「・・・」


「殺したナリスと同じ顔をした、ターニャに何をする気?・・そうか」


「・・なにって」


「姉弟揃ってアホだと思っているよね・・」



「ユ、ユリナさん、どういうことですか」


「ターニャ、あいつの本当の名前はシクル」


「ま、まさか、その名前は」



「あなたとダンのお姉ちゃんを殺した張本人よ」


「う、うそ・・」


「嘘じゃない! 」


ターニャがびくっとした。


「ナリスは、魔物が住む崖に紐1本でぶら下げられた。岩トカゲに噛まれた。その上に魔法を食らわされた!」


「ね、姉ちゃんが悲惨な死に方をしたっていうのは・・」


「犯人はあいつだ」


「お姉ちゃんのために祈ってくれてのは、偽りだったんですか・・」



「ターニャ、信じなくてもいい・・。私はシクルを殺す」


こいつは、ナリスと1番の仲良しを演じた。


そうしてナリスの気持ちを誰よりも踏みにじった。


「この女を絶対に許さない」


「待ってユリナ!」


「ターニャ、ダン、逃げて。あいつは高位魔法使いよ」


「まさか・・」


「あの人の良さそうな顔にナリスは騙された。本性は悪魔よ」


「話を聞いてユリナ・・」


「何が目的でターニャに近付いたのか知らない」


私は鱗を出した。火属性のドラゴンパピー。


「ターニャを、ナリスの二の舞にはさせない」



「ユリナさん、じゃなくシクルさん。今の話は本当ですか」


「・・・本当よ」


「う、嘘ですよね」

「だから本当よ。私はユリナが探す6人の仇の1人よ」



認めた。これから先は展開が読めない。


勝てる見込みはない。ターニャ達が逃げる時間を稼ぐ。


ここで死んでも、ナリスに顔向けできるように、2人を守る。



「ダン、ターニャを連れて逃げて。そいつは殺傷力が高い魔法を使う」


「わ、分かった」


なぜかシクルも動かない。すんなりターニャとダンは逃げた。



墓であっても、ナリスの近くにシクルをいさせたくない。


私が促すとシクルも素直に墓地を出て、林道で向かい合っている。



「さて殺り合うか・・」


「ユリナ、話を聞く気はない?」


「・・うるさい」

「好戦的になったのね」


「ああ、かけがえのない3人を殺されたら、こうなった」


シクルの右手に霜が降りてきた。


魔力がない私でも分かる。だって見えるもの。


凝縮した冷気が奴の体を覆っている。


ジュリアの炎魔法、スターシャの土魔法、レーザーと回復を使えるマリリの光魔法。


その3属性も強力。


だけど私にとって、一番危険なのは、シクルの氷魔法。


氷属性には相手を固定させる魔法がある。


焼かれても斬られてもスキルを使える私。


まだ、氷らされてからの攻略法が考えつかない。



だけど戦う。


ショートソードを収納指輪から出した。



ドンッ。


え?


瞬間、何かに身体を弾かれた。


『超回復』


痛みは消えた。


腹に何か重いものが食い込んだ?


コロコロと足元を転がっているのは、わずか10センチのアイスボール。


こんなもんで、飛ばされた?


「ごめんユリナ。アイスボールで足止めさせてもらったわ。ちょっとだけ話をさせて」

「黙れ・・」


「無傷か・・。これが報告にあった回復スキルね」


「私のスキルを利用する気でもあるの? 協力もしないしターニャにも手出しはさせない」


ドラゴンパピーの鱗を出し「火炎気功術」発動。


一か八かシクルに向かって駆け出した。


「ユリナ、どうしても話を聞いてもらうわ」


シクルの魔法が発動した。


なにをしたのかすら、分からない。


私の足元が真っ白になって、足首まで凍りついている。



決着は一瞬で付いた。


火炎気功術なんて、なんの役にも立ってない。


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