第39話 『火炎気功術』そして偽ユリナ
ターニャが、これまで倒したトレント6体よりも進化した化け物につかまった。
引っ張られるターニャを子供達が追おうとしたが、私が止めた。
「みんなが動くと巻き込まれて大変なことになるから私に任せて」
走りながら左手のナイフで自分の首を2度、3度と切った。子供達に見られたかも知れないが仕方ない。
ターニャを捕まえている蔓をつかんで「等価交換」を使って、大失敗した。
トレントの養分より先にターニャから栄養を奪ってしまった。
慌てて右足がしぼんだターニャに『超回復』をかけて治したが、あせった。等価交換システムの優先順位が、ここでマイナスに働くことは頭に入れてなかった。
トレントは「等価交換システム」では材木扱いのようだ。
幸い、収納指輪から大剣を出して蔓を切ることができた。だけど、退避路を作ることもできないので新技を使う。
収納指輪から火属性ドラゴンパピーの鱗を出した。
「ぶっつけ本番だ。炎の「等価交換」!」
ぼわっ。
私の皮膚が真っ赤な鱗状に変化して熱を帯びた。
あとはひたすらトレントの幹を殴った。火属性は木の魔物に効果があり、あせったトレントの攻撃は私に集中。「超回復、等価交換」も働いた。
ばき、ばきばきばき!
ターニャを守りながら倒せた。
「ユリナさん、そ、それは」
「ユリナさんは、ドラゴニュートだったのかよ」
「すげ、格好いい。なんて技です?」
「えーと、火炎気功術?」
「なんで疑問形なんですか・・。でも助かりました。ユリナさん、これって今までのトレントより2つは格上ですよ」
「そうか。1本だけ高価じゃ7等分しにくいか」
「いや、そこじゃなく・・」
幸い、ノーマルトレントが見つかったので「超回復、等価交換コンボ」で倒し、7人に均等にトレントが行き渡った。
進化種もナリスパパに渡しておいた。
◆◆
トレントの枝は弾力もあり折れにくい。
ゴブリンでトレントの枝を介した「等価交換」実験をしたら予想通り。
大まかに言えば肉、内臓、トレントの枝の順番で、最後にゴブリンの皮と骨が残った。
2~4メートルの「有機物接触用」トレントの枝が50本ほど作れた。
とっさに名付けた「火炎気功術」の赤い皮膚はトレント戦で使ったこともあり、2日ともたず消えた。やっぱりコスパが悪い。
しばらくは子供達の武器の材料になるスモールロックタートル、トレントの狩りに付き合って過ごした。
そして「もう1人のユリナ」が来る日を迎えた。
◆◆
ターニャとダンは、ナリスの墓の前で待ち合わせているという。
お金を置いていったり、ナリスのお墓を作った上に、ナリスが死んだ経緯まで知っていた。
とにかく行ってみればどんな人か分かる。
ナリスの弟妹と村の外れにある集合墓地に来た。
ターニャに聞いていた通りの背格好をした女性が、ナリスの墓の前で祈っていた。
ブルーのきれいな服。
いや、遠目に見る感じでは謝っているようにも、泣いているようにも見えた。
「あ、ユリナさん。もう1人のユリナさんもお墓参りにきてくれてますよ」
「ユリナさ~ん」
「誰だろ。知ってる気がするけどえ~と・・」
「!」
振り向いた奴の顔を見て、視界が歪んだ。
私は反射的にターニャとダンの肩をつかんで、私の後ろに下がらせた。
血が沸騰しそうだ。
なんであいつがいる。
なんでナリスの墓に祈っている。
私の剥き出しの殺気に驚いたターニャとダンは、数歩下がってくれた。
あいつは、私を見ても驚いてない。
「・・あなた、ナリスを馬鹿にしてたのね・・」
「そんなつもりはない。弔いに来たの・・」
「弔う? 信頼させて、騙して殺した相手を? ふざけないで・・。仲間を殺した6人の中でも、一番ナリスと仲がいいふりをして裏切ったくせに・・」
知ってるどころじゃない。
「簡単に罠にかかったナリスを嘲笑いにきたのね。彼女の弟妹も毒牙にかける気なのね」
こいつは、殺すリストに入っている。
「ターニャとダンに手は出させない。覚悟しろ、シクル・・」
私の名前を騙ったのはシクル。憎い仇のうちの1人、氷のシクルだ。
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