第38話 初のトレント狩り

トレントの森と聞いて、寧ろ飛び付いた。


目的はもちろん、木の魔物トレントの枝だ。


これも武器というよりは「有機物接触」の材料。木の化け物トレントは長い枝で攻撃してくるから、その中に細いものもある。


普通の木の枝で仲介して、「等価交換」でラビットの肉を吸い上げる実験には成功している。


ただ木の枝は強度が低い。


しなやかで強い「トレントの枝」を「革ひも」のように都合よく使えるか試したい。


「爪と牙」のように、トレントと普通の木が「似て非なるもの」の可能性もある。


初回は案内人付きだ。


ターニャとダンも付いて来たいそうだ。目的は弓や家具の材料集め。


2人には風魔法の適正がある。弓との相性がいい。


ターニャには初対面で迷惑をかけたし、死んだナリスにそっくり。だから、可能な限りリクエストを聞きたい。


お父さんに森の浅瀬で帰ってくるとこを条件に、2人は許可をもらった。


どこから聞き付けたか、村の子供が男2人、女3人増えて計8人で行動。160センチ以下の子供はいないので、風のカルナと水のウインらから奪った装備の中から合うものを装着させた。



木の魔物トレントの生息地まで来た。


子供達は弓を構えて1本の木を警戒しているが、私には分からなかった。直径1メートル、高さ15メートルで周囲の木と違いが分からない。


「ちょっと、先に戦わせてもらうわよ」


「ちょっと、待ってよユリナさん」

「武器と防具は?」

「危ないって」


「私、気功武術家なんで・・」


子供達の前で最強フォーム「裸」になれない私は、ミスリルタンクトップとミスリルふんどし。左手ナイフ、右手に手甲のみ。


紐だけに守られた私のお尻を見た男の子が赤面してる。思春期だ。


無造作に木に接近すると、5本の枝が襲いかかってきた。


枝が私に触れた瞬間、子供達に背を向けて自分の喉を裂いた。


「気功拳!」


子供達にウケるように叫んだが、本当は『超回復』「等価交換」のコンボだ。


「え?トレントの枝がしおれて弾かれた!」


ざわつくギャラリーの前で私はトレントの幹に近づいて、右手のビス付き手甲で木の幹を殴った。左手のナイフは幹でなく、自分の腹を刺している。


『超回復』「等価交換」を繰り返し、トレントの枝攻撃も枝をひからびさせて退けた。


5分くらいかかったが、幹の半分くらいに切り込みを入れて倒して討伐。これで森の入り口の最弱レベルだというが、時間をかければ相手のレベルが上がっても倒せることが分かった。


異様な戦い方に目を丸くする子供達をうながして、次のトレントを探してもらった。サクサクと6本のトレントを倒して収納指輪に入れた。



「あなた達は7人いるから、あと1本トレントを倒したら帰りましょ。次に案内して」


「ユリナさん。本当に細くて長い枝だけユリナさんに渡して、残り素材を1人1本ずつもらっていいですか」

「うん。必要なら家族にもあげて。私は気功の実験のために何本か長い枝が欲しいだけだから」


「すごく価値がありますよ」

「1本丸々で30万ゴールドになるって父ちゃんが言ってたよ」

「もらいすぎだよ・・」


彼らは善良だ。そして村の大人も優しい。


ナリスに「無能」の烙印を押したのは近隣3つの村。納得はできないけど烙印には理由があり、誰も責められない。


ナリスの村と周囲3村は親戚関係にある者も多い。適齢期になった若者が村を越え交流を持って結婚することで、厳しい環境で生きる彼らの協力関係も築ける。


ナリスにも隣村に彼氏がいたそうだが、彼女は15歳を過ぎても、スキルも何も得られなかった。


本人同士は良くても、世間の風潮として「無能」の血を入れることは歓迎されない。ましてや、スキルありきで魔物と戦っている狩人の村では「無能の子」が増えることは恐れられている。そこに因果があるのかないのか、偉い学者でも分かっていないが・・・



ターニャによれば、隣村の彼氏カールはナリスとの結婚を希望していた。だが、彼はその家の1人息子で一緒に街に出るのも難しかった。


ナリスは周囲の村に1000人に1人の劣等人と知られている自分が結婚すれば、カールに迷惑がかかると思い、カールに黙って村を出たそうだ。


その話をターニャから聞いて、涙が出た。



「ユリナさん、ぼーっとして、どうかしましたか」

「あ、いやいや。最後のトレントはどこ?」


みんなが指さす方を見ると、今までのトレントの倍くらい幹が太かった。


「あれですが、ちょっと大きいし、・・・」


ずるっ。


ターニャの脚に蔓のようなものが巻き付き、一気に木の方に引き寄せられた。


「進化個体だヤバい。姉ちゃん!」



ダンの声を聞いて走り出した。

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