第13話 「Truth」
アイハの意識は戻らずただ毎日が過ぎて行く。
考える時間だけが無駄にある。
サトルはもう一度、病院でアイハを見た日の事をおさらいする。
何か違和感を感じてすぐさまそれに気付くと心臓がドキドキして居ても立ってもいられない気持ちになった。
身体が震える。
何故、今日までこんな簡単な事に気が付かなかったのだろう…。
アイハのあんな姿を見ていつもの冷静さを失っていたと言えばそうなのだが…。
それはアイハの事故の理由である。
仕事中の事故だったと監督は言ったが、それは多分嘘だ。
何故ならアイハが仕事の時にハイロは必ずこの部屋に来ているはずなのだ。
アイハがハイロを置き去りにして仕事に行く訳がない。
もしかしてその日アイハが寝坊したとしてサトルの所へハイロを預ける時間がなかったとか…?
いや、そんな事はあり得ない。
仮にもしもアイハが寝坊したとする。
アイハの性格上、自分の朝食の時間を削ってでもハイロだけはサトルに預けに来るはずなのだから。
では、アイハはいつ何処で何故あのような姿になってしまったのだろう…。
もう一度、現場監督に会って話しが出来ないだろうか…。
今月の外出日がもうすぐやって来る。
アイハのお見舞いのついでと言って監督の家にも寄る事にした。
土曜日に病院へ行く前にまずはそちらへ向かう。
子猫の面倒を数日見てくれたお礼がしたいと言うと快く時間を割いてくれた。
監督の家に到着すると玄関のインターフォンを鳴らす。
カチャッと扉が開くと日に焼けた顔がサトルを出迎えた。
リビングルームへ通され、ソファーへ座るよう促される。
座る前に菓子折りを渡す。
「さ、そんな気を使わず座って。サトル君は随分としっかりしているんだね。」
「いえ、子猫の面倒をみて頂いたお礼です。」
「さぁ、さぁ、座って。」
「ありがとうございます。」
監督の奥さんがジュースを持ってきてくれた。
「どうぞ。たいしたお構いもしないで…。」
「いえ、ありがとうございます。いただきます。」
奥さんの姿が見えなくなったら早速、本題に入る。
ここでの用事が済んだら次にアイハの所へ行く。
門限は夕方六時、サトルにはあまり時間がない。
「監督さん。アイハは仕事中に事故にあったって言いましたよね?」
「あぁ。そうだが…。」
(この人は正直な人だ。もう嘘が顔に出ている。)
「でもこの前は僕、気が動転して何も考えられなくなっちゃって…。あの後、ゆっくり考えたんです。アイハは仕事中に事故にあったのではないんじゃないかって…。」
「………。」
(今、目が泳いだ。何かを隠している。)
「アイハに何があったのか、監督さんなら知っているんじゃないかって…。」
「………。」
(この人は何かを恐れている。)
「お願いです。僕は本当の事が知りたいだけなんです。もし、本当の事が分かっても僕には何も出来ません。だから…教えて欲しいんです。」
「サトル君、君は何が言いたいのかね?アイハの事故は仕事中に起きたんだよ。」
(もう、完全に嘘だ。)
「分かりました。僕の事を話します。僕は脳のエーアイシンプトンです。」
「なっ!」
驚く監督に更に追い打ちを掛ける。
「だから人の嘘も僕にはすぐに分かってしまいます。お願いです。僕はただ本当の事が知りたいだけなんだ。」
「はぁーっ…。」
ため息の後、監督が重い口を開いた。
「いいかい?サトル君。この話しは君の知らない色々な事情が絡んでいるかもしれないんだ。それでも聞くのは怖くないかい?」
「はい。そして僕はここで聞いた話しを誰にも言いません。」
「そうか…。」
ならばと監督が話しだした。
数週間前の事。
仕事も終わり、駐車場に車を停めて自宅に戻ろうとする監督の目の前に一人の男が現れてアイハの事を色々と聞いてきた。
怪しく思った監督はアイハの事を詳しく話さなかった。
それから数日経った夜に見知らぬ番号から電話があり、電話を受けると
「アイハに制裁を加えてやったから見に行くといい。」
と聞き覚えのない声で言われ、何かの冗談だと思ったが数日前の事を思い出し心配になってアイハのアパートへ行くと無防備にも玄関の扉が少し開いていて中を覗くと血溜まりの中にアイハが倒れていたのだ。
慌てて部屋の中に入ると部屋の隅で震えている子猫とテーブルの上に無造作に置いてある一枚のメモを見付けた。
『今後もコイツにこれ以上の危害を加えてほしくなければ決して騒ぐな。そしてこの事は仕事中の事故ということにしろ。でないと次はお前のカミさんを狙う。』
そう書かれていたのだ。
とにかく今はアイハを病院へ連れて行くのが先決だと思い、自分の車に乗せて近くの診療所へ運んだ。
その時はほんの少しだけアイハの意識があり、サトルとハイロの名前を耳にした。
小さな診療所では処置が追いつかず、そこから大きな病院へとすぐに移された。
何処かから見ていたかのようにその数分後、また電話が鳴り受けると
「書き置きは読んだか?こちらは本気だ。」
それだけ言うと電話は切れた。
アイハの容態を見て恐ろしくなり、今の今まで誰にも言わなかったのだと言う。
「サトル君、君に話して決心がついたよ。私は今から警察へ行こうと思う。」
「話して下さってありがとうございます。僕はアイハの所へ行きます。」
帰り際に監督から一言だけ言われた。
「サトル君も気を付けて…。」
アイハをこんな目にあわせたのは誰なのだろう。
アイハは人から恨まれるような人間ではない。
何故?何の為に?
病室の大きなガラス越しにアイハが見える。
特に容態の変化はなさそうだ。
とは言え、内臓や頭の中を診た訳ではないし身体を覆ったシーツのせいで顔と足の爪先以外は殆ど見えない。
(アイハ、早く元気になってまた話しを沢山しよう。ハイロも待っているよ。)
そう心の中で呟いて病院をあとにした。
自室へ戻りハイロのお世話をする。
今日アイハに会ってきた事をハイロに話す。
時折「ミャ〜」と鳴いて自分の話しに相づちを打ってくれているようだった。
監督の話しはハイロには言わなかった。
監督との約束だったし、下手に口を滑らすとこの部屋の監視カメラとマイクに拾われてしまう。
ベッドに入るとサトルは考える。
アイハをあんな目に合わせたのは誰なのか。
サトルの持っている情報をすべて集めていくとひとつの答えが浮かび上がる。
『アンチエーアイシンプトンズ』
その確率は八十パーセントである。
それからサトルはアンチエーアイシンプトンズの事を詳しく調べ始めた。
自分は産まれてからこの施設である意味守られているのだという事にも気付く。
アンチエーアイシンプトンズ…。
エーアイシンプトンを理由もなく嫌い、差別する人達の事だ。
今迄気にも留めた事がなかったし、無関係な世界の話しだった。
それがこんな形で急に目の前に現れるなんて…。
数日後、アイハの事件はニュースで報道されるようになった。
犯人は未だ特定されてはいないが、警察はアンチエーアイシンプトンズの犯行とみて調査を進めているそうだ。
アイハの名前は伏せられていたが職業と年齢、住んでいるエリアと現在被害者が重体である事が報じられている。
何故、彼等は自分の持ち得ない能力を持った者を嫌い、恐怖するのだろう。
恐怖が沢山集まるとそれは狂気に変わる。
アイハが何をしたと言うのだろう。
元気でいつも優しいそして愉快な、怒る時はちゃんと怒ってくれて守ってもくれる。
仕事だってずっと真面目に働いていたし、監督の話しでは同僚の中でアイハを悪く言う人間は一人もいないと言っていた。
そんなアイハがなんで……。
サトルの心には悲しみと怒りが込み上げてくる。
こんなに苦しいなら感情なんていらないとさえ思えた。
テレビのニュースやワイドショーでは連日様々な出演者がエーアイシンプトンズに対する意見を述べ、善だの悪だのと討論が繰り広げられている。
それは政治の世界にまで飛火し、エーアイシンプトンズを擁護する意見が出る一方でエーアイシンプトンズをもっと厳しく隔離するべきだという意見に分かれていた。
当然エーアイシンプトンの芸能人としてシロガネも各局のインタビューに答え、ワイドショーに毎日出演していた。
くだらない…。
サトルはテレビの電源をオフにしてハイロのトイレ掃除を始めた。
初めて会った時に比べるとハイロの体重も数倍くらいに増えた。
「アイハに会いたいよね、ハイロ…。ハイロの名前はアイハが付けたんだよ。灰色だからだってさ。面白いね。」
サトルの側でおもちゃと戯れるハイロに話しかける。
アイハはいつになったら目を覚ますのだろう。
きっと今のハイロを見たら急に大きくなったように見えて驚くだろうな…。
そんな事を思っていたら部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「はい。」
返事をすると扉が開き、一人の女性が立っている。
「こんにちは、サトル君。」
「こんにちは。」
ゲストルームではなく自室へ直接来るなんて…、誰かが訪ねて来るなんて誰も言ってなかったが…。
「突然お邪魔してごめんなさいね、アポイントも取らずに来てしまったの。」
「いいえ。」
「今日はね、サトル君にお話しがあって来たの。」
「………。」
(この人が誰なのかは知っている。でも本来は知らないはずだから知らない振りをしよう。)
サトルがもし、この女性を知っているとなるとサーバールームに侵入して情報を全て読み込んだ事がバレてしまう。
「可愛い子猫ちゃんね。サトル君が面倒をみているの?」
「はい。」
「あ、そうね。始めましてだったわね。私は〇〇っていうの。ここの皆さんや先生達のお友達なの。」
「始めまして、僕はサトルです。」
「あ、サトル君。お土産持って来たわ。これ、一緒に頂きましょう。」
そう言いながら高級ホテルの紙袋からプリンを二つ出してきた。
目の前のプリンに手を付けず相手の出方を伺う。
「サトル君、緊張してるのかしら?もしかしてプリンが苦手だったかしら?」
「いえ…。」
「それとも知らないおばさんが急に来ちゃったから…。」
「いえ、そんな事はないです。」
「あらそう?あのね…。今日はサトル君にお願いがあって来たの。」
サトルは何でも知っている。
この目の前の女性が何者で何の目的の為にここへ来たのかを。
この女性はこの施設を運営する財団の一族の者だ。
まぁ、施設や病院以外の経営もしているので他の複数の企業を合わせて見たら財団内での地位はそれ程高くはない。
但し、彼女の夫は財団の中でもかなりの力を持っている。
そしておよそ二十二年前から秘密裏にその夫と二人で宗教団体を立ち上げている。
宗教団体の中では幹部を纏める立場にあって初代の教祖は彼女の息子だ。
そしてその息子は一度だけここへ来て歌を唄ってくれた事がある。
さっきもテレビで見たシロガネというエーアイシンプトンの著名人だ。
今日、彼女がここへ来た理由はただひとつ。
二年間、教祖の席が空席になっているのを埋めるためだ。
自分の息子が十歳の幼子だったのにも関わらず教祖として祀り上げ、
もうすぐ同じく十歳になるサトルを教祖の座に座らせようとしているのだ。
ここまで先が読めているのに知らない振りをするのはひどく滑稽だ。
でも彼女の話しに合わせる。
「お願い?僕に?」
「そうなの。サトル君、週に一日だけでいいの。私達の集会に来て欲しいのよ。」
「集会?」
「そう。あなたは座っていてくれるだけでいいから。決して悪いようにはしないわ。」
「何の集会?」
(少し意地悪な質問かな?)
「うーん。ええとね…、エーアイシンプトンズと世の中の皆がもっと仲良くなる為の集まりなの。」
(まぁ、嘘は言ってないな。ただ、宗教と教祖という言葉を使ってこないな…。)
「僕は座っているだけでいいの?」
「そうよ。ね、簡単でしょう?何も怖い事はないわ。」
「もし、僕がイヤだと言ったら?」
「うーん…。おばさん、困っちゃうなぁ。そうね、これならどうかしら?今まで月に一度の外出が毎週一度になるって言ったら?」
「うん、分かった。僕、集会に行くよ。」
正直、断る理由は特になかったが敢えて一回断われば何かしらサトルにとって有利な条件を出してくるのが分かっていた。
それが何なのかまでは分からなくても例えばケーキを毎日食べられるとか言ってくるかと思った。
そこでそれを逆手に取り、アイハにもっと会える時間が欲しいと交渉するつもりでいたのに向こうから週に一度の外出を許すなんてとんだ大サービスだ。
この日、集会に顔を出したら週に一度アイハの所へ行っても良いという新しいルールが出来た。
そしてその四日後、サトルは十歳になった。
十歳の誕生日も特に盛大に祝われる訳でもなく例年と変わらず昼食にショートケーキが付いていただけだった。
でも去年はアイハが祝ってくれたから誕生日というものが何か特別な日に感じられたのだが。
机の引き出しの中から一枚のメッセージカードを取り出す。
このカードはサトルの幸せのお守りだ。
一年近く何度も手に取っては読み返している為に角が劣化し少し丸みを帯びている。
ハイロを膝上に乗せて裏に書いてある文字を読み、少しだけ微笑むと切ない気持ちになる。
そういえばアイハが入院してから自分はますます色々な感情を学習している。
でもそれは残念ながらネガティブなものが殆どだった。
ポジティブな事と言ったらハイロに向ける感情くらいだ。
それから更に数日後。
「ハイロ、今日またアイハの所へ行って来るね。お留守番、宜しくね。怪我しないでね。」
この言葉をサトルは出掛ける時にいつもハイロに言ってから外出する。
施設の玄関に送り迎えの車が停まっている。
「お願いします。」
車が走り出し、☓☓会館と書かれた建物に到着した。
自動ドアを抜けるとエンジ色の絨毯が広い床一面に貼られていて右側に受付カウンターがあった。
そこへ行き名前を名乗る。
「少々お待ち下さいませ。」
暫くするとカウンター向こう右奥の通路からシロガネの母親が現れた。
白いスパンコールを所々に散りばめたスーツを身に纏っている。
「サトル君、いらっしゃい。こんにちは。」
「こんにちは。」
「少しお待たせしたわね、こちらへ付いて来てちょうだい。」
「はい。」
歩きながらサトルに世間話をしてくる。
どれもワイドショーレベルの話題で正直つまらない。
でも、この人なりにサトルに気を使っているのだろう。
「ね、サトル君。緊張していない?」
「いえ。僕なら大丈夫です。」
「あらそう。なら良かったわ。」
前回の会話でも思ったのだが、この人はなんと言うか…能天気という言葉がしっくりくる。
本心は分からないがあまり物事を深く考えていないという印象を受ける。
何処か少し危なっかしい感じもする。
そんな事を考えていると
「さぁ、ここよ。私に付いて来てね。」
「はい。」
観音開きの扉が開くといきなり目の前がカッと明るくなり何も見えなくなった。
自分にスポットライトが当たっている。
何事かと瞬きを数回繰り返すとようやく状況が把握出来た。
暗い会場内には多数の人の気配があり、熱気を帯びている。
かなりの人数がいるようだが奥は暗過ぎて見えない。
観音開きの扉が背中の後ろで閉まると盛大な拍手が沸き起こった。
彼女に黙って付いて歩く。
拍手が鳴り止まない。
そんなに高さはないがステージのような所へ導かれる。
そこの真ん中には豪華な一人がけのソファーがポツンと置いてあり、そこへ座るように小声で彼女に指示された。
座ると今迄自分が座った椅子の中で一番の心地よさを感じる。
全身を包み込まれるような感覚でいて安定感もある。
両サイドの肘掛けに腕を乗せるとフカフカなのに更に安定感が増した。
拍手は暫く続き、スポットライトをずっと当てられていると暑いのだという事を学習した。
証明が切り替わり、会場全体が明るくなった。
目の前に凄い数の人間がいる事にここで初めて気付く。
沢山の顔が自分を見ている。
顔、顔、顔…、遠くの人の顔はぼんやりとしか見えない。
サトルはこんな大人数の人間に自分が見られているという空間に身を置くのは初めてだった。
人が集まる空間と言えばアイハと行ったお笑いライブがあるが、その時は規模ももっと小さかったし何より自分は見る側の一人に過ぎなかった。
急に心臓がバクバクしだす。
落ち着くように鼻で深く息をする。
何かの合図で拍手がピタリと止まった。
するとマイクを片手に持った彼女が隣で話し始める。
「皆様、こちらが新教祖のサトル様です。」
(え?なんだかさっきまでとは口調が違う。)
「二代目教祖のサトル様は全知全能を司る脳のエーアイシンプトンであらせられます。」
「おおーっ!」
会場内がどよめき立つ。
そしてあちらこちらからサトルを称賛する声が上がる。
何百人も居るであろう会場内はガヤガヤと五月蝿い。
彼女がスッと手を上に挙げると会場内は急に静まり返った。
「本日はサトル様のお披露目である。静粛に。」
その後は彼女の演説が始まり、エーアイシンプトンズに対する今の世間の在り方や政治家達の対応、昨今ニュースで話題になったエーアイシンプトン襲撃事件の事等を延々と話していた。
この演説を聞いているととても彼女が能天気だなんて思う人はいないだろう。
二時間近くの演説が終わると質問コーナーのような時間が設けられており、信者の一人が言った。
「私達は二年もの間、待ち続けました。中には途中でもうこの教団を辞めていく者も出たくらいです。サトル様の能力を私達の目の前でみせては頂けないでしょうか?でないと私達は報われません。」
さて、能力を証明すると言ってもこれは少し難しい。
例えば前教祖のシロガネなんかは歌を一曲歌えば誰もが納得したし、他の分かりやすい能力を持っているエーアイシンプトンもいる。
アイハもそうだろう。
ドロドロに溶けた何千度もある鉄を素手ですくい上げたりすればその能力の証明になる。
ではサトルは?
ここで普通の人間が解けないとされる方程式でも解くか?
誰も答えの分からない方程式を解いた所で正解なのかも分からない人間に何が伝わるのだろう。
サトルが適当に解いていると言われればそれまでだ。
ならば宇宙の話しでもする?
いや、これも方程式と同じだ。
暫く考えてから困った顔を見せないようにしている彼女にサトルはこう言った。
「今、意見をした人をこの壇上に連れて来て下さい。」
「ええ。」
先程の男性が目の前に来た。
目は泳ぎ、緊張で身体が震えている。
サトルは彼に向かって微笑みながら優しく言った。
「僕は何でも知っている。あなたの事を言い当てましょう。お名前だけ教えて下さい。」
顔と名前が分かれば簡単だ。
施設のサーバーから読み込んだこの教団の名簿を開いて個人情報を開示する。
「七年前、あなたの脳には小さな血管の詰まりがあり、その事で悩んでいましたね?」
「えっ?何故そんな事、分かるのですか?」
恐らく七年前に自分で答えたアンケートの答えを覚えている人間はほぼいないだろう。
でもサトルには今の今、情報としてそれを見る事が出来る。
「僕は何でも知っているんです。これで証明になりましたか?」
そのやり取りを見ていた会場内がどよめく。
中にはやらせではないかと言う声が挙がったが、そう言う人間を片っ端から壇上に招いてその人間の情報を多人数の前で次々と暴露した。
元々疑いを持つ者が少なかったという事もあり、三十分程度でそれは終わった。
会場を後にすると彼女が言った。
「あなたって凄いわ、サトル君。予想以上よ!」
いつもの彼女に戻っている。
「でも何故、うちの信者の事をあんなに詳しく知っていたの?」
「簡単です。顔と名前から生命保険会社のデータを見ました。家族構成とあとはその人の銀行口座も。貯金額に家のローンが残っているか、借金があるか。現在病院に通院している、もしくは過去に通院していたか…。何でも分かります。」
「そうなのね、凄い…。本当に凄いわ!来週も宜しくね。」
「はい。」
こんな程度でアイハに会えるならお安い御用だ。
そして軽い嘘をつく事も平気になっていた。
今日のノルマをこなした所で早速、アイハに会いに行こう。
車に乗り込むと運転手に告げる。
「〇〇病院までお願いします。」
(アイハ、これからは毎週会いに行くからね。)
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