オバター再臨
暇になった人間がろくでもない方向へと流れていくのは必然の事で、試合涸れになった小幡はまた動画配信のコンテンツをやり始めた。認知のされ方ははどうあれ、そうすれば試合に繋がるだけの知名度を得られると思ったからである。
動画配信でのキャラは毒舌を振るう炎上芸人を選択した。聖人君子では動画の再生数が稼げる気がしなかったし、何よりもすぐにボロが出ると思ったからだ。
配信者名はオバターにした。似たような名前のプロレスラーがいた事と、自分の名前をかけた。完全にパクりだが、まさかのご本人が怒って登場すれば、それはそれで再生数が伸びるからいいと思っていた。何から何まで他力本願だった。
もう背水の陣という領域すら超えていたオバターはかなり調子に乗っていた。「ボクシング界の闇」と称して自身の黒歴史を一種のゴシップネタとして配信し、以前に大炎上したスカートめくりの動画はまったく反省していないと言った。
当然の如く炎上した。まったく意に介さなかった。誰かが怒って襲撃にくれば返り討ちにしてやろうとさえ思っていた。
無名のAV女優を呼んだ。オープンフィンガーグローブでスパーリングをして、ビキニを剥ぎ取る企画をやった。実際にビキニは奪い取ったが、乳首を映すと動画が差し止めになるので、モザイクで処理した。
再生数は伸びていった。ジムへ行くと、同僚や練習生が微妙な視線を送ってくる。
その視線は痛いほど感じていたが、バカだから気付けない事にした。実際に救いがたいほど愚かな行為だったが、干されているとまともな感覚が麻痺してくる。
大迫が憎かった。彼に糾弾されたら、すぐにでも殴りかかってやろうと思っていた。ある意味、無敵の人だった。これ以上何も失いようが無い。不祥事を起こしたところで、傷付く名誉など無いのだ。
ジムの関係者に完全無視されている中、オバターはそこそこネットで有名人になった。
ネット有名人――ろくでもない奴らと紙一重の称号。
小幡は急激に有名人となり、完全に天狗になっていた。ボクシングの実績とはまったく関係無く、炎上芸でその知名度を増やしていく――ある種、格闘技のファンが一番嫌う方法でオバターは有名人になっていった。
オバターの活動はジムには言っていなかった。当たり前だ。言えば止めるに決まっているのだから。
仮に活動が出来たとしても、「品位を保て」と無難で環境ビデオめいた企画しかやらせてもらえないだろう。無名の4回戦がそんな企画を配信したところで誰が見るのか。
小幡の企画はどんどん過激になっていった。定番のぼったくりバーへ突入する企画では、予想外の騒動となり、あわや半グレと抗争になりかけた。だがネット有名人であるのを知るやいなや、半グレの態度は軟化した。
オバターのような動画配信で糊口を立てている人間にとって、騒動や炎上はご褒美でしかない。形はどうあれ注目さえ集めれば再生数は伸びて、その分の広告料が懐に入って来る。
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