こじれる不仲~そして、解散前の黒夢へ~

 小幡は表面上大迫の指示を聞くようになったが、ジャブだけ当てて脚を使うという塩試合用に自分のスタイルを改造した。ジャブを当ててすぐに動けば苦手な前の捌きもやらないでよくなり、かつ打たれるリスクも少ない。


 そもそもボクシングを通して観客を熱狂させようなどという野心も無く、ジム内部の不仲で精神的にれていった小幡は、恐ろしくつまらない試合を繰り返す事で、間接的に大迫へ復讐をしていた。


 メッセージはシンプルだった――お前は間違えている。


 大迫自身もこの当てこすりに気付いていた。


 たしかに小幡は大迫の教えには一切抵触していない。だが、見せつけるようにつまらない試合を平然とやってのける。やろうと思えば倒せるのに、少しもその気配を見せない。


 スパーリングでも「手を出せ」と怒鳴ると、十秒だけ従い、あとは流す。指示に従ってはいるので、これ以上どやす事も出来ない。その才能を十二分にも伸ばしてやろうとしていたのに、その意気をバカにされた気分となった。


 二人の仲は最悪だった。大迫は小幡のミットを持つ事もせず、練習生を相手にディフェンスの練習をさせた。「お前などそのレベルだ」という言外のメッセージだった。


 小幡はプロとのスパーリングではやる気がないくせに、練習生に胸を貸す役割という冷や飯を食わされると、ほぼ必ず三十秒以内に倒した。


 小幡は「わざとじゃない」と言った。絶対にわざとだった。二人の関係はますます冷え切っていった。誰もこの二人の不仲に巻き込まれたくなかった。お互いがもはや何を目指しているのか分からなくなっていた。

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