プロボクサーになった。生きるために

 プロボクサーになった。生きるために。


 4回戦のプロテストに合格した。本当に底辺からのスタートになる。合格通知が出た時点で、本当に実績が出せるまでに耐える事が出来るのだろうかと、他人事のように思っていた。


 練習はしていた。だが、根本的にやる気がなかった。


 それなりに自分を追い込む術は知っていた。だが、本当に勝ちにいく人間だけが持つピリピリとした殺気はいつまで経ってもまとう事が出来なかった。


 デビュー戦。画に描いたような塩試合だった。


 脚を使って、高速の左を当ててはサークリングをし続けた。勝つ事だけに徹する。観客がどう思うかなど考えもしない。


 ハンドスピードはあるが、言うなればジャブを打ちながらの鬼ごっこなので、技巧を重視するファンですらすぐに飽きる。明らかに不眠症患者へ見せるための試合だった。


 ゴングが鳴る。葬式のりんに聞こえた。


 勝者は明らかだったが、ある意味ではどちらも敗者だった。


 勝利者コールの時、とても静かだった。拍手も罵声も無い、静穏に包まれた世界だった。


 無関心。誰一人として勝負の行方に興味を持つ者はいない。リングの上と観客席は、完全に隔絶された世界となっていた。


 ジムの関係者は「勝ったからいい」と言った。だが、小幡と目は合わせなかった。

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