穴の7 プラットフォーム

目が覚めると見知らぬ駅のプラットフォームにいた。


「おえ?」


人気のないプラットフォームに間抜けな声がこだまする。


ごごん ごごん ごごん


それとほぼ同時に誰も乗せていない特急電車が線路を走り去っていった。


真っ白な蛍光灯はやはりノイズ掛かっていて不安定だった。


不安定な光で振動するプラットフォームは、闇の中でひどく浮いているような気がする。


まるで現実感が無い癖に、ひどく喉が渇いていた。僕は灯りに誘われる蛾のように、自販機の明かりに吸い寄せられていった。


お汁粉しか残っていない。


意味が解らず、あるいは現実を受け止められず、猫背をさらに曲げて前のめりになって売切れのランプばかりが光った自販機を僕は呆然と見つめた。


ガタン。


結局僕はお汁粉を買った。


二百円入れたのにお釣りは出てこない。


お釣りのレバーをカチャカチャとひねってみてもやはり八十円は返ってこない。


ムキになってカチャカチャとレバーをひねっていると凄い音でブザーが鳴った。


「すみません…」


僕は思わず謝罪する。


ビクつきながら後退りすると自販機はフンと鼻を鳴らしてブザーの音を止めてくれた。


仕方なく八十円を諦めて、色褪せた青いベンチに腰掛けてお汁粉を飲む。


本当は謝る必要は無かったのではないかと一瞬頭をかすめたが、それはお汁粉の糖分にかき消されてしまった。


これはこれでなかなか美味しい。


そんなことを考えながら僕はふとこの先を案じた。


ここどこ?




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