穴の6 ギリギリ

仕事があり家があり、現実は比較的良好で、上と下を見渡せばきりがない。


それなのにどういう理由か息が苦しい。


甘えているのかもしれないな…


そんなことを頭の片隅でぼんやりと考えながらも、脳幹のあたりでは危なっかしい考えがメイポールダンスのように回っている。


ギリギリ。


ギリギリ。


締め上げるように脳幹のポールにゴツい麻縄が絡みついていく。


ギリギリ。


そう。ギリギリ。


ギリギリの平衡感覚でなんとかこの世界に立っている。


こんな夜に限って、胸に空いた青いは穴は眠ったように静かだった。


僕は暗い部屋でテレビだけ点けて、呆けた顔でそれを眺めている。


壁や天井にはテレビ画面からの光がチカチカと色を変えながら映し出された。



灰色、山吹色、黒色、白。



上司の声が頭の中でこだまする。


「早くしろ」


「早く白」


「しろ」










世界が真っ白になった。


気が付くと僕は胸の穴に飲まれしまった。


残された白い世界には、青い玉がひとつポツンと浮かんでいた。


そこで意識が途絶えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る