穴の5 ここどこ
あたりを見渡すと見知った顔がチラホラと見受けられるが何かおかしい。
どうにも奇妙な人が紛れ込んでいる気がする。
たとえば向こうでは首から下が丸裸の鶏が肉屋の男を追いかけ回しているし、こちらではジャーマン・シェパードが胸を張って歩きながら警察官の散歩をしている。
僕はというと黒のスラックスに上半身は裸だった。なぜかD&Gの厳ついベルトを巻いている。
それが厭に気になって、なんとか外そうとカチャカチャとやっているとジャーマン・シェパードが目敏く僕を見つけて近付いてきた。
「君。仕事は?」
「へ?」
顔をあげて間抜けな声を出しながらも、僕は相変わらずベルトと格闘していた。
「だから!!君の職業は何かね!?」
ジャーマン・シェパードは噛みつきそうな剣幕で僕に言った。
「か、会社員です…」
「ということは変質者か…」
「ええ!?」
僕は思わず耳を疑った。
「署まで連行する!!」
見ると先程まで腰にあったD&Gのベルトは、いつのまにか僕の首に巻き付いていてその端をジャーマン・シェパードが握っていた。
ジャーマン・シェパードに引きずられる僕のもとに、天使の衣装を来た子供たちが次々に駆けてきて、胸に空いた青い穴に向かって、丸めたティッシュを投げつけてきた。
「平安があるように!」
「平安があるように!」
「恵みが来ますように!」
「恵みが来ますように!」
ティッシュを吸いこむと胸の穴はスイカの切り口みたいな半月型になって笑い始めた。
「はははははははは」ははは
「はははは」はははははは
「ははは」ははは
「はは」ははは
「はあっ!!」
汗だくで飛び起きると見覚えのない部屋にいた。奥に見える薄緑の洗面所は蛍光灯がチカチカとして煩わしい。
「おはよう」
そこにはテレビを見ながら笑う真由美の姿があった。
「おはよう」
僕はとりあえず挨拶をした。
「ここどこ…?」
僕はつぶやいた。
「あるよねー。目が覚めたら自分家なのに違う気がすることって」
真由美はそう言うと僕のもとにやってきてベッドに入り込んできた。
「ははは見てあれ。面白いよ」
テレビの中ではジャーマン・シェパードが飼い主を散歩させるという芸を披露していた。
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