護符

 放課後、甲斐を伴って帰宅した律はまずは自室に誘った。


「いつ見てもすごい日本家屋だよな。庭木も立派だし」


 大げさに感嘆する甲斐に苦笑する律。


「古いだけだよ。庭も、じいちゃんの頃からそのままだし」


 律の部屋は二階の角部屋だ。西と北に窓があり、この時間は夕陽が差しこんで部屋中が茜色に染まる。律の色素の薄い髪も黄昏時の光に染まって黄金色に輝き、甲斐は光の洪水にとけて消えそうな級友の姿に、気取られぬようこっそりと息を吐いた。


「すっげぇ光。ほんと綺麗だよな」


 うっとりと言う甲斐に律は苦笑い。


「そりゃ他人の家だから気楽にそう言えるよな。西日がすごすぎて夏は暑いし、まぶしくて勉強しづらい」


「そんなもんか」


 とりとめもない会話をしていると、律の母の早紀が冷えた麦茶と煎餅を出してくれた。


「ごめんなさい、急だったからろくなものがなくて」


「とんでもない。俺、煎餅好きだから嬉しいです。ありがとうございます」


 早紀に礼を言う甲斐がいつになくしゃちほこばった様子なのがおかしくて、律は吹き出しそうになった。


「なんだ、澤地やけにお行儀が良いじゃないか」


「いや、久々にお邪魔するし、当たり前だろ、このくらい」


 からかう律に甲斐は拗ねたように言い返すと、ふてくされてそっぽを向いた。


「そうだ、忘れないうちに渡しておくな」


「何これ、御守り?」


「肝試しに行ってから変なことが続いてるだろ。気休めだけど持ってて」


「律、そんなに心配してくれてたんだな......ほんと、サンキューな」


 甲斐は御守りを受け取ると、嬉しそうに握りしめた。内心は喜びのあまり涙ぐみそうなのだが、必死で平静を装って、いつも通りの陽気でやかましい姿を演じている。


(本音を知られたら絶対気持ち悪がられる)


 甲斐は律が今こうして自分から関わってくれている事が嬉しくて仕方がない。ただのお友達以上の関係になれたらもっと嬉しい。……しかし、


(ガキの頃のこととはいえ、律が人を避けるようになったのは俺のせいだ。今さらそんな事言えない)


 甲斐の心にまだ幼かったころの過ちが棘のように引っかかっていて、時折こうして鈍い痛みを与えてくるのだ。お前の罪を忘れるなと言わんばかりに。

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