不安
「澤地、こんなところにいたのか」
昼休みの終わりぎわ、甲斐を家に誘おうとあちこち探していた律は、ようやく屋上の柵にもたれて一人佇む彼を発見した。平素のかしましい姿とはうってかわって、どこか消え入りそうな、寂し気な瞳で虚空を見上げる姿に不安を覚え、思わず声をかける。接近に全く気付いていなかったのだろう、弾かれたように律を見た甲斐は、子猫のように大きな目を瞬かせてから花の咲いたように笑顔になった。
「もしかして律っちゃん俺のこと探してくれてたの?何か用??」
ぱたぱたと走り寄ってくる姿に、尻尾が生えていたらぶんぶんと振っていそうだ、と律は苦笑する。
「もし何も予定がなかったら、今日うちに来ないか?」
「え?お邪魔していいの? もちろん行っちゃう!」
いつからだろう? 甲斐は律が話しかけると、一瞬驚いて固まってから、大げさなくらいに嬉しそうな素振りをする。それは驚いて固まった姿を誤魔化すために見えて、律は内心苦々しく思っている。
(確かに俺は人と関わるのが嫌いだし、こいつが世話を焼いてきても鬱陶しがるだけだから、疎まれて当然だけど)
誰にだって相性というものがあるの。博愛主義で四方八方に愛想を振りまいてばかりの甲斐にだって、苦手な人間がいるのは仕方ない。しかし、無理をしてまで愛想よく振舞うくらいなら、嫌いなら嫌いとハッキリしてくれた方がこちらも気が楽なのだが。
「良かった。ちょっと渡したいものがあったんだ」
これは嘘ではない。一度もののけに憑かれたものはしばらくの間憑かれやすい状態が続く。そのため、当分の間の魔除けとして尾崎の毛を数本入れたお守りを渡すつもりなのだ。あくまで「ついで」の用事ではあるが。
「そっか、嬉しいな。律っちゃん最近やさしーな」
「別にいつもと変わらないよ。それよりそろそろ授業だぞ」
そう言い終わるや否や、予鈴が鳴り、律はふわふわと笑う甲斐を促して大慌てで教室に戻った。
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