(三)

 一週間後、夜にアルバイトから戻った直美は母の素子に詰め寄った。

「あなたのためを思ってやったのよ」「あなたの幸せを考えてのことなのよ」「私の言うことはいつも正しいの」「そうするのが普通のことなのよ」「他の家だってきっとそうしているわよ」「幸せになるためなのよ」

 枝葉末節を省略して大胆かつ詳らかに要約すると概ねそういうことを、母はわめき散らした。そして最後に付け加えた。「あなたは私の言うことを聞いていればいいの」と。

「ふざけないで!」

 直美はとっさにそう叫んでいた。

「なんで自分の人生を生きてはいけないの! 何で普通に生きられないの! 私は他の人みたいに普通に生きていたいだけなのに!」

 直美の言葉を聞くと言い終わるやいなや、母は直美の頬をぶった。


(続く)

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