被写体の百面相〈名残side〉

 それからというもの私は先輩と同じ高校に入学する為猛勉強をした。おかげでなんとか合格できたのだ。そのせいか今はちょっと引かれちゃって部室にあんまり顔をだしに来なくなっちゃったけど、それでもいい。先輩と繋がっていると思うだけで幸せだった。


 影で先輩を撮り続ける毎日。そんなある日、私はふと思う。


(先輩、なんか変わった)


 以前はもっと活発的だったのに、最近は大人しい。それに、よくぼーっとしてることが多くなった。私は気になって先輩の後をつけることにした。


 放課後、学校を出て下校する先輩の後ろを歩く。


(先輩、どこにいくんだろ?)


 中学の時に先輩の家には何度か行ったが、明らかに方向が違った。しばらく歩いていると、先輩は以前とは違う家に帰宅していた。


「お引越ししたんだ」


 私は先輩の家の前で立ち止まる。表札を見ると、聞いたことのない苗字が書かれていた。


(先輩のお母さんって再婚したのかな?それともお父さんの実家に引っ越してきたとか?)


 色々考えるが、結局結論は出なかった。


***


 次の日、私は先輩に真相を確かめるべく、放課後に教室を訪ねる。先輩のクラスに着くと、先輩と一番仲の良い晴氷先輩が居たので声をかけた。


「あの、深雪先輩いますか?」

「ん?深雪の知り合い?珍しいなー。深雪なら今日は急いで帰ったけど」


 先輩はもう帰ってしまったらしい。


「そうですか。ありがとうございました」


 私は一礼してその場を去ろうとした。


「深雪に何か用だった?」


 晴氷先輩が呼び止める。


「その、先輩お引越ししたんですか?」


 恐る恐る尋ねる。


「あー。お母さんが再婚してね。両親は今海外に出張してて代わりに今は新しいお姉さん二人と暮らしてるんだ」


 晴氷先輩は笑顔で答える。


「そうなんですね」


 私は平静を取り繕ったが内心動揺が止まらなかった。


(じゃあ、先輩は私の事なんて忘れてそっちに夢中なんだ……)


 私はショックを隠しきれず、逃げるように自分の教室に戻った。


(新しいお姉さん。しかも二人もいるなんて……)


 私の頭の中で嫌な想像ばかり膨らんでしまう。


 その夜、私は眠れずにいた。


「先輩……」


 私はベッドの上で寝返りを打つ。すると部屋の扉が開いた。


「お姉ちゃん。眠れない。一緒に寝よ」


 入ってきたのは妹の小冬だった。


「いいよ。おいで」


 私は起き上がる。


「うん」


 妹はとても可愛くて甘えん坊だ。私はそんな妹の頭を撫でる。


「えへへ」


 小冬は嬉しそうに微笑む。そして布団に入るとぎゅっと抱きしめてくる。


(先輩もお家ではこんなことしてるのかな。血の繋がってない姉達と)


 私は複雑な気持ちで抱きしめ返す。


(許せない。先輩を変えたのはそいつらだ。絶対に……)


 私は決意を固めると、眠りについた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る