外道選手権
ぎざくら
因果応報って知ってる?
「皆さん、こんばんは。司会・実況の
『解説の
「本日はここ、市内の某コンビニ店の天井にある、換気口裏からお送りしております。少し狭いですが、どうぞよろしくお願いします」
『よろしくお願いします』
「本日は、このコンビニ店内を舞台に、熾烈な戦いが繰り広げられようとしております。何を隠そう、今日、あと1分で”第1回外道選手権”が開催されようとしているのです」
『楽しみですね』
「井生岳さん、今回の大会の見所は何でしょう?」
『そうですね。この大会の見所は何と言っても、”法を犯さないレベルで”どれだけ外道な行為ができるかを競うところですね。どれだけギリギリを攻められるかというのにも、注目が集まりそうです』
「なるほど。井生岳さん、ありがとうございます。おっと。大会開始と同時に、さっそく選手が入場して参りました」
『最初に入ってきたのは、
「さあ、どんな外道行為を見せてくれるのでしょうか。足早に商品を選び……おっと、人が並ぶか並ばないか微妙なラインで、小走りでレジの前に立ちました。井生岳さん、これはぁ?」
『そうですね、これは本人もちょっと焦った顔をしていたので、意図した外道行為ではなく、素で先に並んじゃった感じですね。行為自体も外道というよりは、ちょっとウザいだけなので、これは審査の対象外でしょうね』
「なるほど。想定外のアクシデントもありつつレジに立った小銭谷。店員に堂々と差し出したのは……スープとお握り、飲み物……合計1,221円ですね。スープの温めを希望したようで、店員に商品を手渡し……おっと、渡す手が少しもつれて、ワチャワチャした感じになっております」
『これは、わざとですね。手がもつれたフリをして、わざと後ろを待たせる遅延行為です』
「なんと!こんな小っさい……失礼、こんな細かなところにも、外道の精神を忍ばせているとは!」
『もう片方のレジも塞がってますからね。後ろのサラリーマンが、ちょっと苛ついています。意図的ではありませんでしたが、最初にちょっと割り込まれたような感じになったのも、地味に効いているみたいですよ』
「確かに。手がもつれただけでは、苛立つほどの事はないですからね。さて、スープの温め中に、支払いとなります。このお店は、支払い方法をタッチで選択して、自分で機械に直接支払いをするタイプを採用しています。おっと、現金を選択しましたね」
『これは……あぁー!やっぱり、やり出しましたね』
「何ですか?」
『ほら、見てください。小銭入れの漁り方』
「ああ!小銭入れの中を引っかき回しているぅ!」
『”ああー、目当ての小銭見つからねぇなー”の時にやるやつですね。これ自体に罪は無いんですが、わざと、かつ、先ほどの遅延行為と組み合わさると、なかなかに苛立つ行為です』
「後ろのサラリーマン、腕時計を見始めましたね。おや?隣のレジの会計が済んだようです。ようやく、後ろの人の番が……おっと!?支払い終えた人のところへ、誰かがやって来ましたね!何かをしきりに話しています」
『現れましたね。もう一人の選手、
「あれは、何を話しているんでしょうか?」
『どうやら、”これも一緒に払ってくれ、え?もう支払い終わった?”と言っているようです。連れのフリをして、割り込みをしようとしていますね』
「なるほど。買う物を追加した、という
『当然、仕込みでしょうね』
「仕込み!?アリなんですか!?」
『ルールは、”開始まで選手は入店できない”なので、仕込みの知人が先に店内にいることはルール違反ではありません。ルールギリギリではありますが』
「ルールギリギリ、法もギリギリ、人生綱渡り。さすがは外道選手権に出るような輩です。おっと、選手の知人と思われる男性が頭を下げています」
『”すいません、こいつの会計もお願いします”といった感じですね。店員さん、困った顔をしながらも、了承してしまいました』
「おっと、これは断っても良かった案件ですが、店員の人の良さが出てしまった。後ろのサラリーマンは地団駄を踏んでおります」
『隣のレジは、佳境に入ってきていますね』
「おっと、隣のレジで小銭入れを漁っていた小銭谷は……目当ての小銭は出したようです。しかし……?何をしているんだ、小銭谷?」
『ここが本命の外道行為でしょうね。支払金額に関係無く、ありったけの小銭を投入しています』
「なんと、支払機で両替するような行為を!?しかし、そういった行為はしないよう、支払い機にも注意書きがあります。これは店のお願いに反する行為。店員は注意してやめさせても良いのでは?」
『いえ、注意書きは”同じ硬貨を20枚以上入れないでください”。見ていると小銭谷選手は、各硬貨19枚ずつ投入しているようです』
「なんと!?」
『しかも、両替と判断されないよう、1円、10円、50円の順に、”あれ?これだと金額が合わないな……”などとほざきながら投入しています。本当に迷っていて、見守ってあげるべき場合もありますが小銭谷選手、100円を13枚以上投入している時点でもうダウトです。支払金額は1,200円ちょっとなんですから』
「1,700円投入して500円に両替?とも取れそう……いや、19枚投入しましたね。それも、すべての小銭を1枚ずつ投入。明らかに遅延行為です。後ろのサラリーマン、しきりにスマートフォンの画面を見ていますが、これは一体?」
『レジ前の立て札を見てください』
「立て札?」
『23:59まで、電子決済を使うと10%還元セール……今は23:55ですからね。時間が気になっているのでしょう』
「なんと!あと5分遅延が続けば、10%還元がパア!これはサラリーマン、気が気じゃありません。しかしサラリーマン、これだけ遅延されていたら、小銭谷選手を注意しても良いのでは?」
『注意している間にも、もう片方のレジが空くかもしれない、という思いが、彼を踏みとどまらせているのでしょう』
「なるほど。しかし不幸にも、もう片方のレジに立つのも外道。電磁川選手は……おっと、電磁川選手もスープの温めを希望しました。そして、支払いは……電子マネーを選択しました。これはスピーディーな支払いになるのでは?」
『それが、そうもいかないんですよ』
「井生岳さん、それは一体どういう……?おっと!?電磁川選手が電子マネーをかざすと、”残金が0円です”の表示が!」
『これはわざとですね。0円ということは、わざとチャージしてないものを使っています』
「しかし、これでは支払いができないのでは?電磁川選手、”あー、しまったなあ”とわざとらしく呟きながら……?おっと!”チャージ”を選んだ!」
『そう。この支払機では、提携の電子マネーに限り残金のチャージが可能なんです』
「チャージということは、そのチャージの支払いは……現金!電磁川選手、小銭入れを掻き回し出したぁーー!!」
『ここまで、すべて計画的な遅延行為ですね』
「後ろのサラリーマン、頭を抱えました!現在の時刻、23:57。10%還元は約2分で終了です。レジ前には、サラリーマンの後ろにも長蛇の列ができております」
『サラリーマン以外にも、10%還元でソワソワしている人がいそうですね』
「先にレジに立っている小銭谷選手、支払いは済んだようです。投入金額は合計、3,154円。500円はさすがにやめたようですが、目一杯、遅延行為を働きました」
『しかもこれを、10%還元終了目前の土壇場にやる。まさに外道ですね』
「隣のレジの電磁川選手、チャージが終わり支払いも済みました。小銭谷選手とほぼ同時。小銭入れを漁りだした割には、意外と早いですね」
『現在、23:58。この時刻にも関係ありそうです』
「時刻?それはやはり、10%還元と関係が……?おっと、それぞれスープの温めも終了したようです。小銭谷選手のレジの店員さんが手早くスープをレンジから取り出します。直後に温めが終わった電磁川選手のスープも、ついでとばかりに同じ店員さんが取り出し、隣レジの店員に渡しました」
『2選手の手元をご覧ください』
「おっと!2人とも、エコバッグを使用するようです。おっと!2人とも、スープをゆーーーっくり、丁寧にエコバッグに入れている!!」
『ビニールが破れてスープがこぼれてはいけませんからね。この行為単体では責められないというのもミソです』
「その通り、ゆっくりエコバッグに入れることは罪ではありません!それだけであれば!しかし!これは遅延行為の一環であり、そして彼らは全部、わざとやっています!」
『外道ですね』
「そして、ついでに他に買ったお握りや飲み物も悠々と、ゆっくりエコバッグに入れる!普通なら、温めを待ってる間にできたやつ!」
『温め中の時間は、すべて支払いに使っていましたからね。温め時間の長いスープを選んだにもかかわらず、この始末。さすがです』
「そして、この遅延行為の最中に、時刻は23:59を……過ぎました!過ぎてしまった!サラリーマン、膝から崩れ落ちたぁ!」
『そしてその瞬間、2選手がレジを同時に離れました。間に合いそうで間に合わない……精神ダメージを最も大きくするために、電磁川選手は支払いの終了を小銭谷選手に合わせたんですね。他選手すら利用した、凄まじい外道行為です』
「これは、本当に酷いものを見ました。井生岳さん。今回の優勝、誰になると思いますか?やはり、小銭谷選手すら利用した、電磁川選手でしょうか?」
『そうですねえ……やはり優勝は……』
「優勝は?」
『小銭谷選手のレジに立っていた店員、
「えっ!?っていうか、あのレジの店員、選手だったんですか!?」
『ええ。姿を見せないと思って見ていましたが……よく見たら、店員が槍丘選手でした』
「しかし、彼女は何の外道行為もしていないのでは?」
『いえ、なかなか気づきにくいところでしたが……彼女がレンジからスープを取り出すとき、やっています』
「スープを、取り出すとき?」
『スープのビニールにですね……爪で穴を開けていました』
「えっ!?」
『本当に気づきにくい場所に、小さく。しかし、相手はスープです。エコバッグに入れて歩けば、エコバッグの中でスープが漏れて、グッチョングッチョンになるでしょうね』
「2選手は、気づいていない様子でした」
『ええ。気づかないでしょうね。あれだけゆっくり丁寧に、時間を掛けてエコバッグに入れていたら、あの小さい穴からスープはこぼれません』
「お店を出るときは、エコバッグを振りながら出て行きました」
『ええ。もう気が抜けていたのでしょう。今頃、彼らのエコバッグはグッチョングッチョン、スープの匂いもガッツリ残るでしょう』
「気付いた時に
『ええ。彼らには、いつからスープがこぼれていたかも分からないでしょう。2人の隙を突いた、見事な外道行為でした』
「しかし、外道行為ではなく、急いでいたから意図せず、スープのビニールに穴を開けてしまったのでは?」
『いや、それは無いでしょう』
「それは、なぜ?」
『今の槍丘選手をご覧ください』
「今の?おっと!2選手のせいで後に詰まっていた客達を、猛スピードでレジ対応しています!」
『では、商品の扱いはどうでしょうか?』
「商品の扱いは……なんと!花を扱うように丁寧に、かつスピーディーに!急いでいるからと言って、雑に扱うことなど一切ありません!」
『これが、本来の彼女ですからね。本来、商品のパッケージを爪で傷つけるようなミスはしない、超優秀な店員です。小銭谷選手と電磁川選手にやったのは、明らかに意図的です』
「審査員の評価が出ました!優勝は……満場一致で槍丘選手!第1回外道選手権、優勝は、客を困らせる外道に陰湿な仕返しを喰らわせた、槍丘還子選手です!」
『いやー、第1回ということで放送事故が心配でしたが、それも杞憂に終わりましたね』
「まあ、後日彼らは炎上するかもしれませんが……そんなこと、外道達は覚悟の上!私らは気にしません!なお、今回10%還元を受けられなかった被害者の方々には、番組より同額の保障と謝罪を行います。選手のエコバッグは、保障の対象外です!それでは、第2回外道選手権でお会いしましょう!さようなら!」
外道選手権 ぎざくら @saigonoteki
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