第5話 俺の話

 あ、あんた。待ってたんだよ。また来てくれた。良かった。ちょっと相談したいことあってさ。なぁ、ちょっと耳貸してくれる? 耳。


 ほら、あの子、あっちの子。見てよ。綺麗だろ。あの真っ黒のボディに、くれないのオペラ、舶来のインクだよ。綺麗だねぇ。美人だよな。あの子、俺と同じ出身なんだよ。でも、綺麗だよ。あの艶やかな黒!


 俺ちょっと、声掛けてみたいんだけどさ、何て言ったら良いかな。え、同じ万年筆なんだから、普通に挨拶しろって、あんたわかってないねぇ。第一印象って大事だろ。ちょっとは考えてくれよ。俺とあんたの付き合いじゃん。


 前に何回か、すれ違ったことはあるんだよ。俺は家で待機だけどさ。あの子は仕事場にいるんだ。あの女、ちょっとそそっかしいから、たまにあの子を家につれて帰ってきちゃうんだよね。今日もだけど。前のときに、ちょっとだけ、顔をあわせたことあるんだ。


 一緒に仕事できたらなぁって思うんだけど、俺たちは連れて行ってもらう側だし。一緒に仕事してみたいなぁ。なんか、ちょっと憧れるなぁ。でさ、何って声掛けたらいい?


 

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