第3話 俺の話
あ、あんた、また来てくれたんだ。ありがとう。嬉しいよ。わざわざ来てくれて。ちょっと色々あってさ、俺、また大変なんだよ。ちょっとピンチ、ピンチなの。ねぇ俺の話また付き合ってくれないかな。
え、何? 何? 俺、前になんか変なこと言った?
お前も舶来品じゃないかって。まぁ、そりゃ、俺もドイツ出身だよ。でも俺は、親しみやすさが売りなの。親しみやすさ。だってさ、俺を買うのに一万円いらないから。ペン先がスチールで、ボディが樹脂で、軽さと使いやすさと頑丈さ、さらにはこの機能美、これだけ兼ね備えて、この値段だよ。お財布に優しいのが、この俺だよ。あんたもどう。俺の仲間紹介するけど。ボディがアルミの連中もいるよ。素材の都合で、ちょっと俺よりお財布に頑張ってもらわないといけないけどね。
親しみやすさの俺だからさ、舶来品なんて大層なものじゃぁないわけよ。ま、輸入品だね。
機能美がどこにあるって? ここ、見てよ、ここ。ほら、持ちやすそうなここ。で、このキャップについた大きなグリップ。少々のことじゃ、落っこちない優秀なグリップ。
いいだろ、俺。なかなか。それなのにさ。聞いてくれよ。新顔が来たんだよ、新顔が。
ほら、あっちあれ。白い星型のマーク付いてるだろ。あれ、超有名な連中のマークなんだよ。知らない? 白山って意味なんだけど。
あっちさ、俺と違ってペン先が金なの。え、24Kじゃないよ。落ち着いてくれよ。あんたまで慌ててどうするのさ。24Kって純金だよ。純金なんて、柔らかすぎて字かけないよ。だいたい14Kとか18Kが多いけど。いるのかな。24Kのやつ。俺、会ったことないな。
あの新顔がどっちかって。知らないね。新顔のくせに、まだ来たばっかのくせに、聞いてよ! あの女が最近新顔ばっかりつかってるの! 新顔ばっかり。
やっぱ、親しみやすさが売りのステンレスじゃぁ、金のペン先に勝てないのかなぁ。ん? まぁ、インクは選んでもらってるんじゃないかって。あ、インクに関しては俺のほうが大事にしてもらってるか。あの新顔、もとからサービスで付いてた普通のカートリッジだもんね。
大丈夫かな、俺。捨てられたりしないよね。手に馴染んでるの俺だもんね。スチールで硬くても、長い付き合いだから、書き癖に合わせてペン先がちょっと削れてるしさ。
え、何、その軽蔑の目は。万年筆にとって、ペン先が書き手に合わせて削れてるってのは超名誉なことなんだけど! すげえことなんだけど! ちょっとあんた、俺を変態扱いしないでよ!万年筆の知り合いが俺しかいないからって、誤解しないでよ。まぁ、仕方ないか。そうだよな。時代の流れってのはあるしな。知らなきゃそうなるか。なんか寂しいな。
悪いこと言わないから、あんた、俺の仲間と友達にならない? いいヤツ紹介するよ。お洒落な奴も、格好いい系も、ごつい系も、なんでもいるけど。どう?
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