4.

 妊娠に気づいたのは五年前のことだ。彼にどう言おうかと少し悩んだが、話してみれば彼は大喜びで、すぐに結婚しようと言ってくれた。私はすぐに会社を辞め、結婚と出産の準備を始めた。籍はすぐに入れたが、結婚式は後回しにした。やがて私は無事に娘を出産し、それと同時に新しいアパートを借りた。そして家族三人の暮らしが始まった。

 幸せだった。

 だがそんな時間は長くは続かなかった。彼が交通事故で亡くなったのだ。

 私は子供のことを考えて両親の住む街に引っ越した。両親も決して裕福とは言えず、狭い団地暮らしをしたので、とても同居などはできなかった。

 すぐに仕事を探し始めたが、前職を活かせるような求人はほとんどなく、小さな子供を抱えたシングルマザーにフィットする条件も少なかった。何より、あの時の私には生きる気力がなかった。せっかく手にした幸せは一瞬のうちに霧散し、職場に戻ることも出来ず、どこにも希望を見いだせなかった。それでもやっとの思いで職に就くと、経済的にも精神的にも、どうにかやり過ごす日々が続いた。

 慣れない営業職に疲労困憊しながら、それでも元気に育っていく娘を見ると心が和んだ。両親も一緒になって子供の面倒をみてくれた。やがてそれらは大きな生きがいと感謝の気持ちとなり、私は以前のような気持ちを取り戻しつつあった。

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