2.
繁華街から少し離れた高台にある低層の高級マンション。なんでも有名なデザイナーの手によるものだとか。言うまでもなく親が買ったものだ。俺が大学に合格したのと同時に購入し、父親から卒業まではここに住むように言われた。仕送りは一切ない。マンションのキーと一緒にクレジットカードを渡され、あとはほったらかしだ。こっそり母親に聞いたところ限度額は気にしなくてよいとのことだったので、言われた通り気兼ねなく使わせてもらっている。
卒業したら入れ替わりで親がここに住む予定になっているが、あいにく俺はここが気に入っている。交通の便はともかく、このマンションは何かと使えるのだ。第一、ここに住み続ける限り家賃はかからない。父親は文句を言うだろうが、母親が味方になってくれるはずだ。
外は予想以上の蒸し暑さだった。歩くと汗が吹き出してくる。今夜はなにかと血の巡りが良くなっているのでなおさらだ。
高級住宅街はコンビニが遠い。それに周りは静かで暗い。この時間になると人も車もまったく通らない。本当だったらこんな退屈な場所は遠慮したいところだが、あのマンションに住むメリットはそれよりもずっと大きい。
坂を下りた先にコンビニがある。俺は店内に入るとしばらく雑誌をめくりながら汗が引くのを待った。皮膚が急激に冷えていくのが心地いい。店内には常に数人の客がいるので目立たなくて助かる。
しばらくして俺はビールとハイボールをレジに差し出した。ショートヘアの若い女性アルバイトがバーコードを読む間、彼女の大きな丸い膨らみを目でたどった。そしてその先端にあるネームプレートを読んだ。会計を済ませ店を出た後、俺は彼女の顔を見ていなかったことに気がついた。
コンビニで冷却した体はあっという間に熱を取り戻し、背中を流れる汗がまたしても神経を逆撫でする。マンションが見えてくると俺は暑さに耐えきれず歩みを早めた。だがその瞬間、汗が目の中に流れ込んだため足を止めた。
「あーくそ!」
そう言ってきつく目を閉じた。
痛みが落ち着くのを待って目を開けた後、俺はふと目を凝らした。
そこはいつも見慣れた公園だった。そんなに大きくはないが、二、三の遊具と広場がある。昼間は子供が遊んでいて割と賑やかなのだが、場所柄、夜になると誰もいなくなる。
俺が目を凝らしたのは、公園の奥、大きな木の下に設置されたベンチに誰かが座っていたからだ。公園の中にも街灯はあるが木の下は暗くてよく見えない。分かるのはそれが一人であること、そして、女であること。夜中になると人も車も消え失せてしまう町だ。そんな町の公園に女が一人で座っている。酔っ払いかな? ヤバい人? まさか幽霊? なんだっていいか。そこに暇そうな女がいる。
俺は公園に足を踏み入れた。
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