第4話 誰が為

 歌い終えた歌姫ディーヴァは深々とお辞儀をするとナナシたちの方へ駆けてきた。

 

 

「よかったよアリシア」

 

 

 バトォがサングラスをずらして微笑みかける。

 

 

「ありがとバトォ!! 今から仕事かい?」

 

 

「ああ。糞みたいなやつさ」

 

 

 ぶっきらぼうに言うナナシにバトォが言う。

 

 

「相棒!! 根に持つなよ!! 悪かったって」

 

 大袈裟におどけるバトォにナナシは目を細める。

 

「仕事に遅れる。じゃあな」

 

 

 そう言って立ち去るナナシを見てバトォは両手のひらを天に向けた。アリシアも肩をすくめる。

 

 

 

 バトォと話すアリシアの首に顔のないプリマが官能的に抱きついた。

 

 

「わかったよ。プリマが妬いてるからアタシ達はもう行くよ!! じゃあねバトォ!!」

 

 

 アリシアはそう言って去っていった。

 

 アリシアの腕に甘えて抱きつくプリマ。二人の後ろ姿を見ながらバトォは頭を掻いた。

 

 

 歌姫ディーヴァはプリマのためにピアノを弾き語り、Prima donnaはアリシアのために踊っていた。

 

 それに人々は群がり己の感情を投影する。


 だけど真実はそうだった。


 

 バトォはその背中を見送りながら少しだけ胸が痛む。


 

 バトォが遅れて清掃現場に着くとナナシが酷く嬲られている。だ。

 

 

「Hey!! 一体どうしたって言うんだよ!!」

 

 バトォがすかさず割って入ると、現場監督はナナシに唾を吐く。

 

「こいつは政府のスパイだ!! この街に昔から居たやつは全員知ってる!! こいつはやってきた!! そんなことはありえねぇ!!」

 

「おいおい!! スパイだったら今頃俺みたいな札付きはとっくに捕まってる!! そうだろ!?」

 

 バトォがおどけている後ろからナナシがつぶやいた。

 

 

「テメエの面がブサイクだから俺に妬いてるって言えよ? ブタ野郎……」

 

 バトォは台無しだよと肩をすくめた。

 

 案の定、現場監督の男はナナシに馬乗りになって滅茶苦茶に拳を振り下ろした。

 

 

 動けなくなったナナシに再び唾を吐きかけてモップを投げつけ男は去っていった。捨て台詞を残して。

 

 

「明日までにこの壁を綺麗にしとけ!!」

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