第2話 重力からの解放

 膝を抱えたナナシは後ろ向きにくるりと反転するとビルとビルの間に渡された無数のワイヤーの一本に手をかける。

 

 

 落下のエネルギーが掴んだワイヤーを軸に、そのまま回転エネルギーに転換されて、ナナシの身体を宙へ押し返す。

 

 

 無重力。

 

 

 静止。

 

 

 落下。

 

 

 回転

 

 

 無重力……

 

 

 そうしてあっという間に彼の足は地に付いてしまう。

 

 

 繰り返される重力の支配とそれに対する抵抗。

 

 

 

 一歩間違えれば命を落とすような落下で得られるのはたった数回訪れる重力からの解放。それだけ。

 

 

 

 その自由が欲しくてナナシは毎朝宙を舞った。

 

 

 

 

「よぉー。相変わらず命知らずだな。惚れ惚れするよ」

 

 

 ニヤニヤしながらバトォが近づいてきた。

 

 

「何だよバトォ。俺は今から仕事に行くんだ。お前と遊んでる暇はねぇよ」

 

 

清掃員糞みたいな仕事のナナシくんに運び屋楽しいお仕事を持ってきてやった俺ちゃんに向かって連れねぇ事言うなよ」

 

 

 そう言ってバトォは紙幣を挟んだ汚い地図を手渡した。

 

 

「モノはなんだ?」

 

 

 バトォは首をかしげておどけてみせた。

 

 

「おい!! モノが何かも分からねぇ仕事を受けたのかよ!?」

 

 

 

「カリカリすんなって!! Take it easyだ。そうだろ!?」

 

 

 ナナシはくたびれたモッズコートのポケットに紙幣をねじこむと地図を眺めた。

 

 

「今夜7時にそこに行けば分かるってよ。TOKYOは夜の7時ってな!!」

 

 

「なんだよそれ?」

 

 奇妙な踊りを披露するバトォに苦笑しながらナナシは再び地図に視線を落とした。

 

 

 

「よりによって警備塔かよ……」

 

 

「だけど実入りはバッチリ!! 期待してるぜ相棒!!」

 

 

 肩を組んで来たバトォと共にナナシは昼間のに向かって入り組んだ路地を歩き出した。

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