第5話 団長
それから少しした後、ゲラルドは僕を団長のところに連れて行くと言い出して、団長の部屋に向かっていた。
「レオ、まず一つ注意なんだが、団長には質問をするな。なにもだ。気になっても黙ってろ。俺があとで教えてやるから。いいな?」
「わかった。」
(こわ!ゲラルドがそんなに言うってやばいだろ!絶対何も話さないぞ!)
「クク…」
ゲラルドは僕をみて笑い出した。
「なんだ…?」
「いやぁ悪い悪い。お前がチグハグでおもしろくてな。お前、感情が表に出なさすぎだろ。貴族の坊ちゃんじゃあるめーしその年齢でそんなに自分の気持ち隠せるスラムのやつなんかいねーんだよなぁ。それにお前、自分のこと僕って言うだろ?そんな奴もいない。スラムのガキってより貴族の坊ちゃんって言われた方が納得するぜ。」
(うわー。そこはどうしようもないなー。前世じゃ集団行動が美徳とされてたから感情隠すのなんて誰でもできるし。てかそれが上手くないと生きていけないし。でもまずいか。よし、一人称は変えよう。俺って言うようにしよう。)
「俺って言うようにするよ。前者はどーにもならん。」
ゲラルドは笑いながら答える。
「いや、面白いからいいんだ。まぁ俺って言った方がいいのはその通りだな。でもお前の過去なんてどうでもいい。」
ゲラルドはニヤッとして僕に聞く。
「だってお前は『ただのレオ』なんだろ?」
僕は柄にもなくフッと笑って答える。
「あぁ、そうだ。」
団長の部屋はギルドの建物の1番奥にあった。ゲラルドが扉を叩く。
「団長!新人を連れてきた!」
中から低く太い声がする。
「入れ。」
ゲラルドが扉を開ける。その向こうにはスラムにある建物とは思えない荘厳さがあった。
「こいつがレオだ。さっき言ってたガキだ。俺の弟子にする。」
「ふむ…。まぁいい。お前の気まぐれに付き合うのがうちのギルドだ。」
団長はその鋭い視線をゲラルドから僕に移した。
(こわ!目力すご!組織の長って基本的に怠惰で少し太ってたりすると思ってたけどこの人は全然違う!ゲラルドより強いかもしれないな。)
「レオ、なにか質問はあるか?」
「いえ、ありません。」
「本当か?聞きたいことがあるんじゃないか?今ならなんでも答えてやるぞ。」
「いえ、本当にありません。」
団長はゲラルドに視線を移す。
「ゲラルド、なんでこいつは敬語が使えるんだ?」
「わからん!過去は聞かないって決めた!」
(スラムの子どもは敬語も使えないのか!失敗した!でも年上にタメ口で話すの、なんか抵抗あるし過去も聞かないでいてくれるならここではそれでいいか。)
「ふむ、まぁいい。」
団長はその鋭い視線をまた僕に向ける。先ほどよりもどこか鋭く感じる。
「レオ、お前はこのギルドに命を懸けるか?」
「ちょっと待て団長!レオは…」
「黙れ。このギルドは他の盗賊ギルドとは訳が違うんだ。」
団長の視線は鋭くなる一方だ。
「レオ、どうなんだ。」
考える。なぜゲラルドがそこまで慌てているのか、これは間違えてはいけない質問なのだろうか。ここは「懸ける。」と答えるべきなのだろう。そうだ。この場をうまく乗り切ってあとでゲラルドに色々聞こう。
「俺がこのギルドに命を懸けることはない!!!」
(は…?いま僕はなんて言った…?)
団長は僕には見えない速さで剣を抜き僕を斬る。斬られた、と感じた。しかし、僕と団長の間にゲラルドがいた。ゲラルドと団長の間に凄まじい剣戟の音がする。しかし、次の瞬間には2人は剣を抜かず立っていた。
(なんなんだこれ…。バケモンかよ。)
「団長。ちょっと待ってくれ。レオには俺が全て伝えておく。これは俺の甘さってこともわかってる。だからこそ、頼む。頼む。」
ゲラルドは団長に頭を下げた。
「ゲラルド、お前はこのギルドの副団長だ。そして貴重な魔法使いでもある。お前のわがままを聞くのもうちのギルドだ。だがこいつはダメだ。こいつは今の剣戟が見えている。何も訓練していないのに、だ。」
ゲラルドは振り返り、驚いた顔で僕を見る。
「は…?お前、見えたのか…?」
「は、はい…。2人が剣を抜くのが。一瞬だけだけど…。」
ゲラルドは団長の方を向き直し、笑顔で言った。
「団長!こいつはすごいぞ!俺らよりも強くなる!このギルドももっともっとでっかくなるぞ!」
「あぁ。こいつが強くなるのは認める。だがな、こいつはうちに忠誠を誓わない。」
「団長、それは俺がこれから時間をかけてじっくり教える。俺たちが何をして…」
「ゲラルド、こいつは無理だ。1人で生きていくことを誓った目をしている。まるで…。いや、いい。だが、ギルドの敵になる可能性のあるやつは、力を持つ前に殺すのが俺たちのやり方だろ?」
「団長、頼む。こいつのことは俺に任せてくれ。団長の言う通りなことは理解している。だがそれでもだ。頼む。」
「それはこいつがお前の…」
「団長」
「…ん、わかった。いいだろう。だが少しでもそいつがギルドの敵になるのだとしたらそいつはお前が始末しろ。これは団長命令だ。」
「……わかった。」
僕とゲラルドは部屋を出て元の部屋に戻る。
ゲラルドは僕に笑って話す。
「団長、かっこよかっただろ?」
「…はい…。」
(むりむりむりむりむりむり!!!こわすぎだよ!!!死ぬところだったじゃん!!!!!)
「ハハっ!流石のお前でもこれは気持ち隠せねえか!」
ゲラルドは大きく笑った。
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