2.上り

坂道を上る。

ハッハと息をする。

勾配のせいではない。

長く歩いているだけである。

周りは暗い。

もちろん街灯はある。

街が寂れているわけではない。

しかし暗いのである。

そして静かである。

何も聞こえない。

上る時はぼうっとしているわけにはいかない。

自分の中には今日一日の疲れが溜まっている。

蒸し暑い中であるから当然汗もかく。

そして坂道である。

上っているうちにどこへ向かっているのかさっぱりわからなくなってしまう。

ただ上るために上ることになってしまう。

周りは暗いのであるから、曲がる場所を間違えると戻れなくなってしまう。

だから意識を手放してはいけない。

そしてただ上る。

足を動かす。

それを繰り返す。

頭が少しガンガンする。

立ち止まってはいけない。

そうすると視界がモヤモヤに覆われてしまう。

頭がぼうっとしてしまう。

左右にゆっくりと流れていく街並みに特徴などないのだから現在地までわからなくなる。

一度止まると全てがリセットされてしまう。

だから歩き続ける。

前を向いて。

荒い息で。

坂を上る。

後ろを振りかずに。

しかしこんなことを考える。

自分の後ろには誰かがいるのか。

動物がついてきていることはあるのか。

そもそも何があるのか。

不安は膨張を続ける。

足を早める。

私の後ろに、街は続いているのか。

もしかしたら。

もしかしたら。

もしかしたら。

風が吹いている。

まだ本格的な秋でもないのに肌寒く感じてしまう。

思考が私の足を止める。

頭がガンガンして。

視界にノイズのようなモヤが広がって。

ゆっくりと振り向いた私のくっきりし始めた視界には。

暗い。

ただ暗いだけの。

坂道が映る。

頭はクラクラしている。

九月の風は生暖かい。

でも歩くために歩く坂道は、いくら九月でも、寒く感じるものだ。

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坂道 譜錯-fusaku- @minus-saku825

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