坂道

譜錯-fusaku-

1.下り

坂道を下る。

決して急ではない。

しかし、歩いていると自然にスピードがついてしまう。

そんな坂道である。

まだ空が明るくなりきっていない時間。

見渡す限り人はいない。

ただこれは昼間でも2、3人しかいないのであるからそんなものである。

蒸し暑く感じる。

もう九月だというのに、ちっとも秋ではない。

まだ半袖で過ごせるほどである。

早く冬になって欲しいかというとそうでもない。

寒いのも嫌なのだ。

カバンを背負ってただただ歩く。

足にドンドンと衝撃が伝わる。

目的地は学校である。

歩いて何十分もかかる学校に向かう。

自転車を使おうにも微妙な角度のこの坂のせいで帰りが大変である。

歩いたほうがマシなのだ。

ただただ下る。

時々、歩くために歩くのではないかと思うことがある。

もちろん学校に行くためだとわかっている。

頭ではわかっているのだが。

学校に着くとバカらしくてその考えはかき消されるのだが。

坂を歩く間はそんな気がしてならない。

考えることもない。

聴きたい音楽があるわけでもない。

携帯をいじると怒られるだろう。

本も然りである。

だからぼうっと歩くしかない。

歩くために歩くと考えているではないかと思われるかもしれない。

それは違う。

私は、ただ思っているのである。

そんな考えが思い浮かんで、ただそれだけである。

まるで豆腐小僧だ。

どうしてそう思うのかなど、考えたこともない。

足から伝わる振動が掻き消すのだろう。

ただただ坂道を下る。

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