第6話
ふと腕時計の文字盤を見て、待ち合わせの時間よりも15分前であることを確認する。
五分前に到着する計算で家を出たつもりが、乗り換えを繰り上げたことで早く着いてしまった。
私の待ち合わせは、大抵私が一番に到着していることが多い。というのも、少しずつ時間を短縮してしまった結果、どんどんと前倒しになって行き、今日のように予定よりも十分ほど早い行動になってしまうからだ。
以前、これを無意識にやりすぎて、一時間近くも前についてしまったことさえある。
それは些か度が過ぎてるにしろ、今日の十五分前到着というのも、少しいやな気分である。
完全な自意識過剰であるのは理解しているつもりだが、それでも『十五分も前に着いて気合い充分ではないか』と思われるかもと考えただけで、頭が痛くなる。
私はなるべく、人目につかないところで数分をやり過ごそうと駅構内をうろうろすることにした。幸いいつかの線が一つになっている駅の為、遠い方のホームから歩いてきた感じを装えば、さほど不自然なこともないだろう。
しばらくそうしてからやっと改札を出て、待ち合わせのロータリー近くへと向かう。
きっかり五分前。
そこにはすでに、坂東美樹ともう1人が集まっていた。
女子は全部で五人と言っていたから、あと2人がまだ来ていないようだ。
「あ、ななちゃん、こっちこっち。今日はありがとうね!」
美樹が私を見るなり手招きをして、そう言った。
『ななちゃん』とは、私の苗字である『七枷』から取ったニックネーム的な呼び名で、学科内ではこっちが浸透している。
「ううん、誘ってくれてありがとう」
形式じみてはいるが、私は一応そう言った。
美樹の隣にいる女子は村田美香子といい、彼女とも普通に話す仲だ。
「なんか、新鮮……ななちゃんが合コンにいるのって」
美香子が私の顔をみて、そんなことを言う。
「あんまり得意じゃないからね、こういうの」
「言ってたもんね。でも、結構楽しいよ? それに、今日はN大学の先輩たちも来るっていうし」
「結構ルックスの良い人を揃えてくれたって話だよ」と、美香子は嬉しそうに言った。
彼女から発せられる良い意味での『男好き』なオーラは、きっと男性にとって、心地よいものだろうと思う。
私のように、まずは疑い、様子を見るタイプにはない暖かい魅力があるに違いない。ともすれば、彼女はモテると思うが、それでも率先して合コンに参加してるということは、理想が高いのか、単純に合コンという食事会を楽しんでいるのだろう。
「なんかね、うちの大学の先輩がN大の人と友達で、その流れですることになった合コンなの」
補足するように美樹が言う。
「じゃあ、うちの大学とN大が半々くらい?」
「そう。うちからは主催の先輩ともう一人、N大からは三人ってところ」
N大といえば、少しばかり富裕層の多い私立大学だ。ルックスに気を使う余裕のあるお金持ちの学生が多いということは、それなりに格好良い人も多いということになる。
少なくとも、お金の面ではメリットのある男性が来るということだ。
これは楓の言うように『タダ飯』にはなりそうなので、悪くない。
そうこうしているうちに残りの女性メンバーも到着して、私達は合コンの行われる場所へと向かう事になった。
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