魔男2

 コウモリに当たり燃え広がる炎。それに驚いたのかコウモリ達が散っていく。魔女を守るコウモリは居なくなり、「そこだ!!」と剣士が一刀両断すると斬り口から小さなコウモリが飛び出す。

 魔女の体はカラカラと崩れ落ち、その後ろに青い魔力を帯びたコウモリが集うと黒いローブとフードを被った男の姿。


「……糞ッ」


 その声は荒々しく苛立っていた。男は師匠を見ると駆け出し、滑るように足元にコウモリを飛ばしながら風のごとく師匠の前へ。


「よぉ、久しぶりだな。リリアック、まだお人形遊びしてるのか?  いや、コウモリの世話か? 大変だな」


「フンッ好きでやってんじゃない。冒険者のためにやってんだよ。じゃないとゲートはただの廃墟だ」


 コウモリのような大きな羽を広げ、後ろへ後退するとリリアックはフードから唯一見える口がニヤッと笑う。


「ようこそ、冒険者。ゲート突破おめでとう。魔女こと魔男【リリアック】とはオレのこと。コウモリと人間のハーフ。なーんてな」


 見た目に反して彼は陽気だった。

 人が変わったような陽気な声に間が空く。


「えっ、どう言うことですか?」


 剣士、吟遊詩人、魔法使いは不気味を下ろしリリアックに問うと「ここ周辺のモンスターはオレが管理してる。つまりここはオレの拠点。各ゲートにボスのモンスターいるだろ? その責任者だ」とリリアックはヘラヘラと答える。


「責任者?」


 アバウトな説明にハテナを浮かばせる冒険者に師匠が更に口を出す。


「こういうことだ、冒険者。お前らが外に出てモンスターを狩るには経験がいる。ゲートの序盤は先輩方とやらが相手してくれ、途中からしっかり野生のモンスターに切り替わる。今は挑むための準備期間と言うわけだ」


「そーいうこと。オレの仕事は終わり。ほら、さっさと帰れ。しっしっ。あー糞ッまた作らないといけねーじゃん。えっと、メモメモ。次いつ来るんだ――はぁ!? マジかよ」


 五人のやり取りをジーッと見つめるハク。そう言えばそう言うの――と腕を組み考え込んでいると「帰るぞ、小娘」と師匠の手には袋一杯に入ったコウモリ。


「ひぇぇぇー。あれ、魔女は食べないんですか?」


「アレはリリアックの人形だ。対冒険者用のな。アイツ自身はモンスターを召喚するのに力使ってるからだから戦えないんだと。しかも、ドロップも何もない。だから、好きじゃないんだ」


「知り合い、なんですよね?」


「あぁ、数年前。まだ見習いの頃な。たまたま酒場で出会って。それで何度か手を組んだことがある。アイツは見た目より歳がいってるからな。魔法で若返ってんだとよ」


「なんか、面白い人ですね」


「そうか?」


「はい、なんだか怖そうで優しいヒトみたいな感じがいいです」


「お前、そう言うやつ好きなのか?」


「へっ? いえいえ、ハクが好きなのはですよ」


 一瞬、ムッとした師匠の顔に機嫌を取るように「エヘヘっ」と照れながら言う。すると、師匠は視線を逸らし「今の言葉忘れるなよ」とゲートを出ようと先行く冒険者の後を追う。

 ハクは胸を押さえ、少し高鳴った胸を隠すように壊れた人形の修復するリリアックに「頑張ってくださいね」と一声かけると大きな背中を追い掛けた。

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