魔男1

 廊下の奥。

 千切れた鎖が散らばるドアを剣士が押し開けると大広間。天井には大きなシャンデリア、大きな窓ガラスを蔓が侵食し外は見えないが魔力を感じる。血のような真っ赤の絨毯に大広間の端には壊れたピアノ。元々は食事会でも行われていたのだろうか。その名残と言えそうなものが散らばっていた。


「師匠、ハクちゃん。ドンパチやります!!」


 戦士、魔法使い、吟遊詩人の後ろに立つハクと師匠だったがハクの戦闘に対する興味が湧いたのだろう。今にも鉤爪を出しそうな気配に「ダメだ。お前と俺はあくまで支援。危なければ俺が前に出る。お前は残ってる食材や薬草類を調合して支援しろ」と庇うように前に立つ。


「ぶーぶー。師匠のケチ」


「あのなぁ、遊びに来てんじゃない。あくまで俺らは冒険者の援護がメイン。冒険者はゲートを制覇するのが仕事だ。違うんだよ、目的が。お前も分かるだろ」


「分かってますよー」


 頬を膨らませ、プイッとそっぽを向くハクだが魔力が集結する気配に水色の液体が入った小瓶を取り出す。


「誰かしら」


 コウモリが集い、人形になると現れたのはハイヒールに露出が激しい胸元がぱっくりと割れたドレスを着た魔女。冒険者三人は緊張から体が強ばるも師匠は至って冷静で「本体はどこだ?」と包丁を握りながら冒険者の隣に立つ。


「あら、いい男。私とどう?」


 魔女は師匠に行為があるのかゆっくり近寄り、胸に手を添えては顔を近づける。その行為に師匠は興味ないと動揺すら見せないが後ろにいたハクは顔を真っ赤に『師匠ぉぉぉ』と頬を膨らませ焼きもちを焼く。


「悪いが興味がない」


 その言葉に『カッコいい』と目を輝かせるハク。


「やだ、照れ屋さんなのね?」


 引かない魔女。やたらと触ってくる手に苛立った師匠は掴み、優しくも力強く捻り曲げ、舌打ちを漏らすと師匠の化けの皮が剥がれる。


「そのでかい胸、露出激しい服、色気で勝てると思ったかこの×××ピー


 あまりも汚い言葉に自己規制が入る。冒険者一同、あまりの汚い言葉に目を点にしハクも思わず口が開く。


「し、ししょぉぉぉ!?」


「その糞みたいな胸を包丁で×××ピーしてやろうか。そんでステーキにして食ってやってもいいんだぜ? なぁ、ハ――」


「私に話を振らないでください!!」


 下品で容赦ない発言にハクは突っ込む。


「それともアレか? 四肢を×××《ピー》して腕の丸焼きなんて良いな。魔女は火炙り。丸焼きでもいい」


「サイテーね、アナタ」


「ハハッ頭の中はレシピで一杯なんで」


 魔女から手を離すや腹に蹴りを入れ、「見損なったわ。死になさい」の言葉に包丁を構える。


「冒険者、魔女はダミーだ。本体を狙え」


「へ? 違うんですか」


「蹴ったとき木が軋むような手応えのない感覚だった。アレは人形だな」


「人形? じゃあ、本体は……」


「戦ってれば出てくる。来るぞ。武器構えろ!!」


 魔女の体が怪しく光り「許さないわ、クソガキ!!」と腕を広げた瞬間――数えきれないほどのコウモリが飛び交う。


「クソガキと言われるほどの歳じゃない。クソババァ!! あ、違うなぁ。クソガキ!!」


 互いを中傷する言葉に「黙れ!!」と魔女の言葉に反応したコウモリが冒険者、師匠、ハクを襲う。


「うわっ」


 剣士は怯みながらも深呼吸しながら一匹ずつ切り落とす。吟遊詩人は剣士と魔法使いに強化を施し、魔法使いは「ファイア」と小さな炎を飛ばしながらコウモリを焼き落とし吟遊詩人を守る。

 師匠は包丁一丁でコウモリを切り刻み、時には蹴り飛ばし、殴り落とし格闘が混じる。


「ハク、お前は回復支援に回れ」


「アイアイサーってふえぇぇぇー!!」


 回復支援と呼ばれ、驚きのあまり叫ぶ。


「わ、私も戦いますよ!!」と鉤爪を取り出すと師匠の野太い「戦うな!!」と鋭い声に手が止まる。今までにない声に怖くなり、涙が頬を伝うも頬を叩き気持ちを切り替えた。


「す、すみません!! 支援します!!」


 援護しようと範囲回復用HPポーションを師匠に向け投げる。コウモリの多さに視界が悪いため調理用の油と布巾と瓶を調合させ【火炎瓶】。緊急用のジッポライターで火をつけ、コウモリに向け投げる。


「えいっ」

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