魔女の使い魔の煮込み物2

「師匠、何を作るのですか?」


「見た目がグロテスクで食う気が失せるのを防ぐために煮込み物を作る。食わなくてもスープだけ口にしても構わない」


 続けて。


「コウモリは肉がないように見えてある。しゃぶれば絶品。黒猫は臭さはあるが薬草でしっかり漬け込めばマシになる。ジャック・オー・ランタン、カボチャの破片はそのまま煮込めば甘味を産み出す。蜘蛛に関しては嫌だろ」


 と、マジックバックやハクの鍋から蜘蛛だけを取り出すとフライパンに移す。油を注ぎ温まったそこへ――ドンッと入れる。まさかの


「ひっ」


 カリッカリッに揚がった蜘蛛に悲鳴を漏らすと師匠は足を食べながら「ほら」とフライパンを火傷しない距離まで押し付ける。


「い、いやです!! 蜘蛛、嫌いなのです!! 気持ち悪いのです!!」


「はぁ? プチワーム食ったことあるだろ? 森にいる小さなワーム。栄養満点でグニュッとしたブニブニの食感よりはマシだ」


「あれは可愛いから


「かわんねーよ。胴体の卵よりは足の方が食べやすい。見たくないだろ。胴体の真っ二つにしたらチビ蜘蛛がウジャウジャ揚げられたの見たら」


「ひぃぃぃ!! き、気持ち悪いこと言わないでください!!」


 嫌々するハクを見てケラケラ笑う師匠。それでも、と思うと泣きながらパクッと蜘蛛の足を噛る。嫌な顔をしながら口をモグモグゆっくり動かし、ゴクリと喉を鳴らす。


「あっ美味しい……」


「だろ?」


 味はないが食感はカリカリとしたチップスのような感じで――ハクは気に入ったのか。もう一本咥えた。


 沸騰した鍋に臭みを消すために薬草、魔力が宿った実等を入れ、グツグツと煮込む。その次にコウモリ、ブラックキャットを入れ、じっくり柔らかくなるまで煮込めば砕けたカボチャを投入。味付けは無し。その場の食材の味を楽しむため入れない。最後に目玉をゴロゴロと入れ、軽くかき混ぜ出来上がったのは――【魔女の使い魔の煮込み物】。


 紫色な湯気。

 毒々しいグツグツに煮える食材達。

 こんにちは、と羽や足、目玉が顔を出す。

 匂いはけして良いものではない。 

 

 これまでにはないほど――。

 不気味で不味そうな料理だった。


「師匠。これ、大失敗なのでは?」


 あまりの出来の悪さにハクは目を棒にする。


「そんなことはない。食べてみれば分かる」


 自信満々で冷静な師匠。

 見た目に圧倒され引き気味のハク。


 こんな料理あったっけ、と調理本を取り出し探してみるもない。“それ”は師匠オリジナルの料理だった。


「ほら、お椀出せ」


 手を差し出され、寄越せと大きい手が手招き。はい、と渡すと気を遣ってくれたのか毒々しい煮汁。いや、スープが注がれる。

 クンクン、と匂いは普通。少しだけ恐る恐る口へ含むと“それ”は思っていた以上に美味しかった。色々な具材を煮込み、旨味を煮出したスープのような臭みがなく、ホロホロのカボチャの破片が口へ入ると甘味が広がる。たまたまコウモリやブラックキャットの肉も入っていたか。柔らかくも弾力があり、臭みは全くなく食べごたえのある食感だった。


【魔法耐性アップ】

【異常状態耐性アップ】

【属性耐性アップ】


 美味しさに酔いしれていると魔女向けのバフが付く。


「……美味しいです」


 控え気味のハクの声に師匠は無言。


「おいしいーです!!」


 静寂に耐えきれず大きな声でもう一度言うと「それはよかった」と安堵の言葉。ついでに「失敗したのかと思った」と師匠らしくない言葉が飛び出す。


「俺の想像ではもう少し見た目の良いものを作りたかったのだが、まるでハロウィンに出てくる見た目の悪い料理。流石に今回は反省しなくては。念のためレシピを残しておくが二度目はないだろう」


 メモ帳にレシピを書き加え、師匠は溜め息混じりお口直しで残っていた薬草スープを飲む。すると、目を見開き鍋に残っていた薬草スープを入れるとバフンッと大きな煙が立ち、怪しい色合いだった鍋の中身がいかにも美味しそうな色へと変わる。


「うわぁっ美味しそうな匂いと色です!!」


「薬草が中和したんだろ。これなら残さず食べられそうだな」


「はい!!」


 コウモリの羽にかぶり付き、ネコの肉をパクッと口の中へ。カボチャは甘味がさらに増し溶けたのかパンプキンスープのような見た目。

「美味しいです、師匠」と一人パクパク食べていると後ろから鎧が擦れ合う音と複数の足音に地面に座っていた師匠が腰を上げる。


「何用だ?」


 手には包丁を持ち、殺気を放ち問いかけると「えっと、新人冒険者で。その……」といかにも頼り無さそうな三人組。レザー装備に剣の剣士と木の杖に黒いローブの魔法使い、ひ弱そうな木の琴を持った吟遊詩人。まだクリアーしたことがないのだろう。表情から不安が滲み出ていた。


「あ、良かったら食べてください。ここの魔女に有利なバフがつく料理がたった今出来たんです。とっても美味しいですよ」


 ハクは三人に駆け寄り、可愛い笑顔で出迎えては木の器によそい、三人に手渡す。それを「美味しい」と何度も良いながら食す姿に心踊らせ、師匠に目を向け目が合うや微笑む。


「ごちそうさまでした」


 冒険者は腹を満たし満足したのか不満げな顔が少し自信に満ちた表情へと変わる。作戦会議を初め、邪魔しないようにと見守っていると「よし、頑張ろう!!」と剣士が二人を勇気づけ奥へと歩みだす。

 その姿にハクは何処か懐かしさを感じ、背中を見ていると「なぁ、冒険者」と師匠が片付けながら三人に声をかけ提案する。


「良かったら援護してやろうか? 俺らは調理士で食材集めをしたいんだ。魔女が調理できるのか知りたくて調査に来ててな。それついでだ、何処か不満もあるんだろ。なら、手を組もうじゃないか」


 師匠の予期せぬ言葉に目を丸くするハク。それを見て笑いかけるも堪える師匠。続けて――。


「討伐報酬はお前らにやろう。食材は此方が貰う。どうだ?」


 冒険者三人は顔を合わせ「うん」と頷き、「お願いします」と頭を下げる。


「交渉成立。ハク、準備しろ」


「は、はい。すぐやります」


 師匠は冒険者に魔女の弱点や行動を分かる範囲伝え、ハクは水で鍋を洗いながら必死になって片付け開始。布巾でお皿を拭き、鍋を拭き、椅子やテーブルを師匠共通のマジックバックに突っ込んでは「ハクちゃん準備できましたー」と師匠の元へ飛んで行く。

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