魔女の使い魔の煮込み物1

 ゆっくり館の扉を開けると腐り朽ちた天井。左右には廊下があるが瓦礫が道を塞ぐ。


「あれれ、師匠。何処にも行けないですよ」


「足元」


「へ?」


 師匠に言われ足下を見ると大きな六芒星の魔方陣。まさか、と師匠の顔を見つめると目映く光る。眩しさに思わず目を閉じ、収まった瞬間――目を開けると蔓がぶら下がりクモの巣だらけの廊下が続いていた。


「この奥に魔女がいる。戦う前に腹ごしらえだ」


 天井に張り付くスバイダー。同じくコウモリ。割れた窓には骨のように細い手が伸び、床にゴロリと転がるはジャック・オー・ランタン。ニャーと聞こえるは猫の声。だが、暗闇で姿が見えないことから黒猫だろう。不吉なものばかり。


「はい、師匠」


 敵の多さにハクは手を上げる。


「なんだ」


「鉤爪使ってもいいですか」


 調理士の武器は包丁、フライパン、鍋。だが、バーサーカーの血が騒ぐのかハクの手には鉤爪。


「……良いが手伝わないぞ」


「はい!! 大丈夫です。ハクちゃんは強いので」


 腕に鉤爪を取り付け、キラーンと目を輝かせるハク。


「いや、そう言うわけではないんだが」


 ヤル気満々のハクの背に隠れるように立つ師匠。念のためフライパンを取り出し、いつでも殴れるようにスタンバイ。


「はいはい、モンスターの皆さん。この可愛いハクちゃんが――調!!」


 地を蹴り、素早い動きで敵を蹴散らすハクに師匠は一言。


「見た目は良いんだが中身が可愛くないんだよな」


 その言葉に師匠はフライパンを振るう。飛んできたのは頭を叩き落とし、静かに感じるハクの殺気に背を向けた。


「はぁっ……てい!!」


 鉤爪で敵を切り裂く。転がった羽や腕、足を師匠は一人寂しく拾い、使えそうか目を向けてはマジックバックへ突っ込む。


「このっ飛ぶな!!」


 小柄なハクがコウモリに弄ばれてるのを見た師匠はクスクスと影で笑い、包丁を取り出すやコウモリに向かって投げる。ザクッと眉間に深々と刺さり、壁に縫い付けられるよう刺さるコウモリにハクは振り向く。


「師匠、ナイスです!!」


 それも、先程の暴言を吐いていたとは思えない可愛らしい笑顔で。


「ハッ」


 師匠は『戦闘中だ』。その意味を込めて鼻で笑う。よそ見していたハクに向けモンスター達が一斉に飛び掛かる。バーサーカー状態が解けていたのだろう。「きゃっ」とか弱い悲鳴に師匠は駆け出し間に割り込む。鍋の蓋を盾代りに大量のモンスターをぶっ飛ばす。


「フン!!」


 そのまま――鍋の蓋をブーメランのように飛ばすと弧を描きながらモンスターを両断。ドン、ドシャッと崩れ落ちる音に尻餅ついたハクは目を点にさせ、何度も瞬き。


「し、師匠」


「おっと、俺としたことが体が勝手に」


 師匠は戻ってきた血だらけの鍋の蓋を文句言わず受け止め、ニヤリ。彼の少し邪悪な笑みにドキッと心打たれたハクは頬を赤く染める。


「ず、ズルいです。師匠の武器、強すぎなのです」


「バーカ、頭を使え。この


「プチっオコなのです!!」


 むむっと頬を膨らませるハク。


「あのなぁ。前職がバーサーカーなのは分かってる。だが、今のお前は調理士だ。出来るなら支給された調理器具で殺ってくれんか?」


 壁に突き刺さった包丁を引き抜き、コウモリを回収。


「師匠だって少し前に盾召喚してたじゃないですか」


「正当防衛だ。あんなの真向勝負したら耐えられたもんじゃない。分かるだろ、お前も。俺ら調理師はあくまで冒険者を支援する身。戦闘民族じゃない」


「でも……」


「癖が抜けないのは分かる。俺も抜けてないしな」


「それ、師匠失格じゃないですか?」


「かもな」


 間が空く――。


「だが、お前の面倒を見るようギルドに言われたからには立派になるまでは手放せん。早く食材回収しろ。大体は殺せたろ」


 話しながらハクは千切れた腕や足、胴体等を自分の鍋へ入れる。

 蜘蛛の足、蜘蛛の胴体、砕けたカボチャ、ブラックキャット、名前の分からぬ一つ目悪魔のモンスター。生えていた草、魔力が宿った怪しげな実。


「師匠、回収しましたー」


 笑顔で師匠の元へ行くと奥へ進むと思いきやその場で調理する気なのだろう。器具を置き広げる。燃えそうなモノを集め火を起こしては使えそうな土台を見つけコンロ代りに。その上に鍋を置き、湖で調達した水をドボドボと鍋の中へ注ぐ。

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