野うさぎと薬草のスープ2
グツグツと沸騰した水へ切り刻んだ薬草や解毒草を入れゆっくり煮込む。透明な水が段々と緑色へ変わり、そこへドライ薬草・解毒草と大きめに手で千切ったモノを加え更に煮込む。
香りは美味しいと言うよりは“苦い”。
薬草独特の苦味と青臭さが引き立つ。
薬草スープはポーションの原型と言われ、今では薬草と瓶があれば合成魔法で作れてしまう。が、調理師は魔法ではなく“食材の味を楽しむ”と言う意味で回復アイテム代わりに瓶に詰めたり、作ったりすることもある。
「あ、魔力草たった今見つけましたー!!」
何か足りないと必死に探していたハク。土まみれになりながらも湖で紫と赤い魔力を帯びた草を師匠の元へ。手で千切り「美味しくなぁれ!!」と鍋に入れるとバフンッと真っ黒な煙が――。
「あ? お前、何した」
「魔力草を一草入れただけですけど」
「んで、バフンッといったのか」
師匠は眉間にシワを寄せ、お玉で少し掬い口へ運ぶと渋い顔。
「これじゃあ、ただの青臭いスープだ。調理士としてはもう少し美味しく頂きたいよな。本来、冒険者がいるならこれでも良いが。此処に一人戦闘民が居るんだ。少しばかり贅沢がしたい。此処の近くに野うさぎ居ないか? 足跡があったんだが」
野うさぎ。その言葉にハクは耳を澄ませ目を閉じる。妖精が美しく舞う羽音。風で草木が揺れる音。その中に混じる――野生の気配。ゆっくりハクは目を開けると息を殺して地を蹴る。根を飛び越え、駆け出し、調理士らしからぬ動きで跳ねるうさぎに飛び付く。耳を掴み、持ち上げるや「アハハハハッ」と殺気に満ちた声を出しながら勢いよく包丁を振り下ろした。
「ししょーもってきましたぁー」
元気な声でハクは師匠の元へ戻ると彼女の手には皮を剥ぎ、臓器処理した野うさぎの肉。「はい」と見せると「おぉ、流石」と師匠は半笑いながらまな板を差し出す。一口サイズのブロック状に肉を切り、鍋の中へ入れると苦味や青臭さ引き立つ匂いが嘘のように消え、美味しそうな匂いへと変わる。
「しまいに調味料をパパッと入れて。出来たぞ」
師匠の言葉に「わーい」とハクはバンザイ。器によそって貰い、手を合わせ「頂きます」とスプーン片手に食べようとするが――師匠の視線に手を止めた。
「何かついてますか?」
「……血のり。どうにか出来んか?」
「あ」
スープをテーブル代わりの切り株に置くや全力で駆け出し湖に飛び込む。バシャンッと大きな音に妖精達は驚き姿を消し、やれやれと師匠は頭を抱えた。
「洗ってきましたー」
「正式には濡れただ、アホ」
「えへへへ」
焚き火に当たりながら風邪をひかぬようハクは温かいスープを口に運ぶ。薬草独特の苦味がうさぎの臭さを消し旨味を引き出す。とてもシンプルなスープだが栄養満点でHP、MP、異常状態回復、体力強化小とバフ付きだ。
「美味しいです、師匠。うさぎのお肉が臭くなくてホロホロと柔らかく、スープもさっぱりしていていいのです!!」
子供のような笑みと褒め言葉に師匠はフッと鼻で笑う。
スープを食べ、暴れたせいか眠くなったハクは焚き火の前で猫のように丸くなる。そんな彼女に師匠は歩みより風邪ひかぬよう抱き抱える。百五十ぐらいのハクと百八十五ほどある師匠。
元は大盾使いの家系であったが、ゲートで大怪我を負い、クラフト系に興味があり転々としていたがうまく行けず出会ったのが調理師。調理士はパーティーを支えるが、調理師は調理士を育成する顧問担当。
「食って寝るとブタになるぞ」
「んん」
小さくグズるハク。その姿にハハッと微笑を浮かべると真顔になり前髪を弄る。何も言わないが彼女を見つめるその目は何処か愛おしそうで――。
「ハク」
と、いつも『お前』という師匠がさりげなく名前で呼ぶ。
「俺もお前とは違うが家系が大盾使いでな。それはそれは厳しい訓練だった。ある日、もう少しでゲート制覇って言うときにミスして大怪我してこの様だ。元々クラフトに興味があって、錬金術師やらやってたんだがゲートの合間で食していた干物が固くて不味いわりに助けられてな。それで料理に興味が湧いた。誰もなったことのない調理士その設立者ではないが作り上げたのは俺だ。まだ数少ないから知名度は低いがきっと――」
静かに独り言を呟く師匠だったが、視線を感じ下に顔を向けるとニシシッと笑うハクの姿に「起きてんじゃねーかよ!!」と頭を叩き投げ飛ばす。
「んぎゃっ」
地面とキスしたハクはペッペッと土を吐きながら「えへへっ」と頬を赤くして師匠を見る。師匠は恥ずかしそうに髪をかき上げ「寝るぞ」と何もなかったようにマジック・シートを敷き寝始めた。
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