野うさぎと薬草のスープ1

 店が閉店し、師匠から見習いに今日のお給料としてギルを渡されるがハクはそれを師匠に返す。


「はい、師匠」


「渡したのに何故返されるんだ、と問いたいが毎度のことだからな」


「えへへ。だって、小さい頃からお金に頼らず自然を使っても生きろって言われてるからイマイチ使い方がわからなくて」


「だろうな」


 調理器具を片付けながら師匠は鋭く言葉を返しつつ「ハク以外はあがっていいぞ」と見習い達に声をかけ、店内にはハクと師匠だけとなる。


「お前宛に手紙が来ていた。誰かがお前がここで働いていることを里にチクったんだろ。脅迫と言ってもおかしくない内容の手紙。“追放”“掟に背いた罰”とかなんとか書いてあった。しばらく此処を離れて旅にでも出るか? あまり周囲に知られちゃお前も試験受けるときに不利になるだろ。まぁ、俺個人の意見だがお前は試験受けなくても俺の元に居ればそれでいいと思ってる。その方が安全だ」


 タバコを吸いながら師匠はテーブルの整理と消毒をするハクに目を向け、静かに話しかける。それを聞いているのか、いないのか。ハクは返事を返さなかったが彼女の不安そうな表情に師匠はフゥ……と煙を換気扇に向け吐く。


「荷物を固めろ。俺の代わりに明日は違うヤツが此処を継ぐ」


「……師匠。せっかく冒険者さんと顔見知りになれたのに離れたくないです」


「ダメだ。師匠として言う。俺に従え、分かったな」


 深夜帯。

 賑わっていた都会の街は閑散としており、街灯が怪しく街を照らす。ヨーロッパ風の街並みは夜に呑まれ、明るさはなくその中を小走りでハクが駆ける。先行く大きな背中を追って――。


 街を抜けた先にある森『魔女の森』。

 薬草や解毒草など治療系の草が豊富の場所で魔法を使うモンスターが多いことから【魔女の森】と呼ばれている。その置くにはゲートがあると噂があり、訪れる者は多いが魔法防御が鍵となるため近づくものは少ない。

 深い森の中を歩み、途中視界が開けると【妖精の湖】と呼ばれる休憩ポイントにたどり着く。森は別名【迷いの森】とも呼ばれており、一度入ったら出られないとも言われている。


「師匠ー見てください。沢山草生えてますよ。薬草、解毒草まで」


 足元に生えている薬草や解毒草をむしりながら師匠を追いかけ、湖の近くで腰かけボーッとしている師匠に飛び付く。


「なんだ」


「見てください、見てください。これだけあればHPポーションとMPポーションたっぷり作れますよ!!」


 ハクは一応成人しているが子供のような可愛らしい笑みを浮かべ「師匠ー師匠ー」と腕を掴み揺さぶる。

 小柄で銀髪の肩下までのロングヘアー。瞳は赤と黒の間でクリクリの丸い目は愛嬌がある。歳は二十歳と言うがそれよりも若く見え、師匠が手放さないのはその幼さと可愛さからほっとけなかったとか。


「師匠、妖精さんから粉貰いました。赤、青、緑、すごく綺麗ですよ」


 ハクは子供のように駆け回り、妖精を追いかけ優しく手で包み込むように掴まえては「何か良い食材ない?」と聞き込む。すると、妖精は森の奥を指差した。


「ゲート」


 真っ黒で吸い込まれそうな森の奥。それに引き寄せられそうになり一歩踏み出すといつの間にか隣に師匠が立っており、ハクの肩に大きな手が乗る。


「夜明けとともに行く。今のうちにポーション作っとけ。お前は“調”だ。殺られちゃ困る」


 そう言い、離れるな、と腕を引く。師匠の大きな手に「わぁー」と手を貸さね。ゴツゴツした傷だらけの手を優しく撫でる。マイペースで人の手を見て喜ぶハクに師匠はわざとらしく咳払い。


「戦闘に備え薬草スープでも作るか」


 その言葉に、キラーン、と目を輝かせるハク。“戦闘”と聞くと血が騒ぐのかソワソワと落ち着かない。


 師匠は腰についているマジックバックから大きな鍋を取り出す。折れた枝や簡単な風魔法で木を切り裂き、拾い集め薪の代わりに。水分が多く燃えにくいが葉っぱや枝を着火材に火の魔法で火を点け、その上に鍋を置く。

 ハクは小さな見習い様の鍋で湖から水を掬い「キュア」と毒がないか消毒のつもりで治癒魔法を唱え、水を師匠の鍋へ。


 トントントンッ


 包丁で薬草や解毒草を刻む。


 ビリッメリッ


 と、魔法でドライに加工しスパイスへ。

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