第11話


「きーきー、ききき、きーきーきーきー」

「この地方は、お前が指揮を取れ。知事というのは、今からお前だ」

「へ、僕ですか?」


 金ぴかの猫は、僕の前まで歩いてきて、そう言ってきた、らしい。


 女の子の顔を、驚き見る。


「きき、きーきー、ききき、ききき、きーきーきーきききーきー、ききき、ききき、きーき、きーきー、ききき、きーき、ききき、ききー、きき」

「お前は言葉もなく、私のしてほしい事を自ら察し、恥ずかしげもなく服従を現した。その奴隷根性と察知能力が気に入った。我々は、何よりもその能力を評価しているのだ」

「きーきー、きき、きっ、ききーきーきー」

「まずは復興だ、お前も好きな家を建てて住め」

「きーき、きき、きーきーききき。ききーーき、ききききき、きーきーきききき」

「お前の仕事は、このお前らが着る制服を着て、我々のために働くことだ。お前らの習慣に合わせそのために作ってやった服を大事にしろ」


 僕の着ている作業服を、金ぴかの猫が前脚の指で指し示した。


「きーききき、ききーききー」

「そいつがいつも監視している、おかしな真似はするな」


 女の子を指さす。


「きー、きききー」

「あと、これもやる」


 小型冷蔵庫ぐらいある急須みたいなのを渡してきた。


「きーき、きーきーきーきききー、き、ききき、きーきーきーきーきききー、ききききー、き、ききーききき」

「なんでも消失できる道具だ。これで身を守れ。言っておくが俺らには効かないようにしてあるからな。作業服の袖についてる認識マークをかざして使え」

「きーきー」

「では、任せた」


 金ぴかの猫が浮かび上がって、宇宙船と共に消えていった。


「マスター、シャラナもしっかりお手伝いいたします」


 隣で女の子が力強く僕に言ってくれた。


「……よろしくお願いします……」


 こうして僕は知事として、政策を行う。


 僕は知事として、しっかりやっていかないといけない。


 全くよくわからんかったから、逃げ隠れていた政治家の人を集めて、その人達の言うとおりに政策をする事にした。


「不束者ですがよろしくお願いいたします……」

「よろしくお願いいたします、知事!」


 禿げ上がった人達が僕に深々と頭を下げてくる。


 復旧はうまくいった。


 僕の故郷は、あの猫に、なぜか気に入られた僕のいるここは、この地方の中心となる。


 田んぼしかなかった国道沿いは、猫のための食料や工業品を作る工場を建てた。


 その中で、人類は奴隷労働させられている。


 僕らに給料というものはない。


 死なないように、最低限の食糧が届けられるだけだ。


 街に出かけて買い物なんてする自由なんてものもない。


 あの金貨は、全く役に立たない。

 

 金なんて、もう何の価値もない。


 猫たちは、僕ら統治グループの住む場所としてタワーマンションを建設してくれた。


 移動手段にリムジンも用意してくれる。


 僕らが喜ぶもの、ということだから、用意してくれたらしい。

 

 タワーマンションの最上階が、僕の住みか。


 毎朝、僕は地上を見下ろしてから、作業服を着て、県庁へと出勤した。


 窓から見えるのは、故郷の、のどかな田んぼ風景は失われ、見渡す限りの奴隷工場が立ち並ぶ光景だ。


 たが、住宅地はぜんぜん元の通りの街並みのまま残せた。


 誰も住んでいない町、新たに家の建築などももちろんできない、死の町。僕はたまに懐かしんで散歩して、昔住んでいたアパートを休憩地点にしていた。


 逆らう事は許されない。


 だが、僕は猫の傘下にあるとはいえ、自由に部下を使える権力があった。だからそれぐらいできた。


 毎日毎日、言う通り僕は業務を行い、その合間に、国民が持っていた金や宝石類も集めさせている。


 無論、今の世界に、そんなの持っていても何の価値もない。


 が、僕はこの時間の流れが、不可逆的な一本の流れだと確信できている。


 僕の未来は、何も変わってない。


 最初に穴を潜ってきた未来と。2度目の未来は同じだったんだ。未来はすで決まっていた。僕の行動なんて何の関係もない。だから……。


「何をやっているのですか? マスター」


 宝石類を集める僕に、女の子が尋ねてきた。


 僕の監視役……邪魔だな、まったく……。


「ただのコレクションだ」

「大将に報告いたしますね」

「許さないのか、こんなことも。ただのダイヤや金貨でも」

「まぁ、一応でございます」


 シャラナがダイヤを興味深そうに見つめる。


「何、ほしいの?」

「いえ、いえ、違います」


 女の子は慌てて否定した。


「見てたじゃない」

「見ておりません」

「なんで嘘つくの」

「嘘じゃありません」

「ほしいなら欲しいと言えば良いじゃない」

「な、なんですか……」

「ねぇ君、猫工知能埋め込まれたか何でか知らないけれど、どっかで幸せに暮らしていた女の子なんだから、ほしいものは欲しいと、僕に入っていいんだよ」

「え?ああ、そんな……マスター……」


 女の子の顔が赤らむ。


「では……マスター……」

「なんだい?」


 女の子は、指をもじもじさせて、俯く。


「じ、じつはシャラナ、シャラナは、趣味として魔道具作りを……始めまして……それで、その……」


 ……魔道具作り。そうだ、骨董屋でも言ってた。


「え? なんだって、よく聞こえないよ」

「その……じつは、最近、魔道具作りにはまっておりまして、素材になりそうなんです、それ」

「魔道具作り……、あの宇宙船とかって魔法なの?」

「日本語で翻訳しようとすると、魔法が的確でございますね」

「ふーん」

「いいよ、全部上げる」

「ホントでございますか!」


 女の子は満面の笑みを浮かべた。


「持っていきな」

「宝石類でございます。金は、あまりいりません」

「そうなの、じゃ、金の類は僕のね」

「ありがとうございます!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る