第10話


「ほら、見てください!」


 僕は服を脱ぎ棄て叫んだ。


「きー?」


 金ぴかの猫が、不思議そうな顔をになって、急須を叩こうとしていた右手が下がる。


 あれ? いける?


 シャツを脱ぎ捨てた。


 なんだ、うまくいった?


 ズボンを、パンツを脱ぎ捨てる。


「きーきーきー」


 金ぴかの猫がじろじろ脱いだパンツを見ていた。


「きーきー」

「……どうですか……」


 腰に手を当て、素っ裸で仁王立ちした。


「きーきーきーきーきー、きーきー、きーきーきーきー」


 金ぴかの猫が立ち上がる。


「ぎゃあああああ! ああああああ!」


 そのまま僕に抱き着いてきた。


 思わず悲鳴を上げてしまう。


 ううう……ああああ……あれ、すごい毛がふさふさで、意外に気持ち良い。


「きーきききーきー」


 金ぴかの猫は、近くに居た猫に何か言い始めた。


 なんだ? 命令をしているのかな。


 猫が右前腕だけを上げる、敬礼みたいなのをして、駆け足でどこかに去っていく。


 そしてすぐに、帰ってきた。


 誰だ?


 猫の背後に、子供が連いて来ている。


 そんなっ、なんで!?


 連れてきた女の子を見て、驚きのあまり固まってしまった。


 バカな!?


 なんで、あの女の子が、連れて来られてるんだ!?


 よく目を凝らし、女の子を見る。


 真っ裸だが、あの女の子だ、間違いない。


 頭の猫耳も、一緒だ。


 僕が殺した、あの骨董屋の女の子だ!


 なんだ、あの手に持ってるのは……


 清掃員の、作業服?


 女の子の手には、丁寧に折りたたまれてた作業服があった。


「マスター、これからお願いいたします」


 女の子がお辞儀してくる。


「シャラナは、シャラナと申します」

「ああ……」

「きーきーきー、きき、ききーきーきーきー、きき、きききーきーきーきー、きき、ききーきききーきーきー」


 金ぴかの猫が何か言ってきた。


「俺は魔道具作りが趣味でな。それでこの惑星人の小人を拉致して、脳を摘出、そして猫工知能を埋め込み、何でも言う事を可能にしたアンドロイドだ」


 女の子が、言ってきた。


「マスター、あなたは大将に気にいられたみたいでございます」

「大将?」


 金ぴかの猫を横目で見る。


「きーきーきー、きーきー、き、き、ききき、きーきーき」

「今後、我々が地球を統治するにあたって、マスターには特別な地位を与えるそうでございます」


 ……通訳してるのか。


「きーきー、き、きーきーきー」

「この作業着を着て、我々の世話をするように」

「きーきー、きーー、き」

「この惑星時間で17日後にまたやってくる」


 僕は女の子が通訳するのと、金ぴかの猫を交互に見る。


「きーき、ききき、きーきー、きききき、きー、きーきーきーきき、きーきー、きききき、きーききき、きーきー、き、き」

「それまで自活するように、このアンドロイドも使え。俺の埋め込んだ猫工知能は、我々の頭脳を凌駕するとんでもない奴だからな。そしてそいつはお前の監視役でもある、機能を停止した途端俺らに報告が行く、壊そうなど思うな」

「きーきー」

「じゃあな」


 金ぴかの猫が、手下の猫を連れて宙に浮かんで、そのままユーフォ―に乗って、雲の上まであっという間に飛んでいった。


 周りのみんなが、呆気に取られた顔してユーフォ―を見送る。


 ついで、呆気に取られた僕に視線を移した。


「マスター、ご自宅のほうに参りましょう」


 断る、なんて選択肢は、ない。


「……はい……テントですが……」


 てくてく、女の子を引き連れて家路についた。


「世界は、あの猫みたいな宇宙人に征服されてしまった、ということなんですか?」

「もちろんでございます」

「日本は、どうなったんですか?」

「主要都市は壊滅、全地域のライフラインも壊滅させたみたいでございますね」


 女の子はニコニコ笑顔で、言ってくる。


 僕は女の子と2人、水も電気も、ガスも電波も何もかも止まった状況で、暮らしていく事になった。


 ……僕はいったいどうなるんだ……。


 僕の行った、あの未来は、何だったんだ。全く違う未来になるのか? だとしたらなぜだ。


 待てと言われた17日間の、1日目が、そんな感じで不安のまま過ぎていった。


 2日目、電波が復旧した。


 いや、あの猫の宇宙人達が復旧させた。と言うべきか。


 電波にのって、テレビからネットからラジオから、あの猫の宇宙人によって全世界の軍隊が、政治家が、皆殺しにされている映像が流れ続けた。


 そしてその映像の最後で、あの猫の宇宙人が、つたない日本語で、


「我々に降伏しろ、命は保証しよう」


 と言う映像が流れ続ける。


 7日後。新しくなった首相が、日本はあの猫の宇宙人に降伏し、占領下になったことを告げる。


 憲法を変えられ、日本は猫の支配する独裁国家となった。


 そして17日後、金ぴかの猫が言ったとおりにやって来た。


 僕は、貰った作業服を着て、女の子と共に駅前広場に赴く。


「あっ、来ました」


 女の子が上を指さした。


「ほんとだ」


 宇宙船が雲の上から、光輝きながら降りてくるのが見えた。


 金ぴかの猫が、宇宙船から浮遊しながら降りてくる。


 僕らは、ピシッと起立して出迎えた。


「きーきーきーきーきー、ききーきーきーきーき」


 僕らの前に降り立った金ぴかの猫は、話し始めた。


「この惑星のすべての国家を征服し終えたそうでございます」


 女の子が通訳する。

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