第8話


 女の子が驚きの顔で僕を見ていた。


 胸元しか背丈のない女の子に全力でタックルする。


 突き立てたナイフの刃が、小さな体にめり込んだ感触がした。


 僕らは倒れ込む。


 どうなった!? ちゃんと殺せたか!? ちゃんと刺せたよな!?


 手元のナイフは、ガッチリ固定されていて動かない。


 急いで立ち上がり、女の子から離れる。


 女の子の胸元に、ナイフは突き刺さっていた。


 赤い血がどくどく流れ出ている。


「マスター……」


 ……やった……やってしまった……。


「マスター……シャラナは、あなたを……」


 女の子は、口パクパクさせて、何か言っている。


「ああ……自分が壊れるのがわかる……マスターに、会いたい……」


 まだ生きてる。とどめを刺すか……。


 壁にかかっている金棒に目が留まった。


 あれで一発……。


「マスター……シャラナは、あなたを……お慕いもうして……おりまし……」


 女の子の口がだらんと開きっぱなしになる。


 目をパッカり開けて、女の子は瞬きもせず目玉は上を向いていた。


 ……死んだか?


 女の子はピクリとも動かない。ナイフは心臓の位置、死んだな、確実に。


 よし!


 あとはこいつの処理だ、流れた血の処理も面倒だな。


 未来に持って行って埋めよう。そしたら誰にもバレない。


 ……落ち着け……


 女の子の足首を掴む。


 ずるずる引き摺ったら、太い血の線がスーッと床に引かれて、気色悪かった。


 なにか、なんかで、包むか……汚れるな……。


 あたりを見渡す。


 ……包めそうなものはない……。


 何でも良いや、とっとと済ませよう。


 女の子を引きずり、石の穴をくぐり、未来の骨董屋の庭に来た。


 庭に、埋めるぞ。綺麗な庭があって良かったぞ。


 スコップも、たしか……ある。


 工房の壁に掛かっているスコップを取りに戻り、庭の一番隅っこを掘っていった。


 結構深めに掘った。


 へとへとだ。


 手も痛い。結構時間がたった感があるが、今は何時だろう。


 空を見上げ、ぐっと手を伸ばし、ストレッチ。


 青空が広がっている。


 心地良い空だ。


 穴に土を放り込んでいく。


 穴が土で、どんどん埋まっていった。


 これで終わりだ。これで終わり。埋めたら終わり。


 穴が土で埋まる。


 踏み固める。


 女の子の体分の土が余った……。


 そこらに、適当にまぶしたりして、拡散させる。


 よし、終了。


 面倒かけやがって……。


 ……イライラしてきた……。


 めんどくさい。


 ……帰ろっと……。


 穴を潜り、現代に戻ってくる。


 これで、この石は僕のものだ。それだけじゃない、この店にある物すべて僕のものだ。


 ははははははははは。


 笑いが止まらない。


 人生バンザイ。僕の、これからの素晴らしい未来に、乾――


――誰だ!?


 視界の端に顔が見えた。


 振り向くと、石の穴から誰かが覗いている。


 そいつはすぐに頭をひっこめた。


 バカな!? あそこから出てくる奴なんて!?


 気のせいか……?


 穴を覗いても、誰もいない。


 なんだよ、ビックリさせやがって、はははははははは。


 とりあえず帰ろう。それで、ノート片手にこれからの計画を立てようじゃないか。


 僕はウキウキした足取りで、骨董屋を後にする。


 その時だった。


――くしゅんっ。


「何!?」


 くしゃみみたいな音が背後でした。


 振り向くと骨董屋が消えている。


 なっな!? 店が!? 石が消えた!? なんで!? 何で消えた!?


 完全犯罪が!? 僕のこれからの計画が!?


 僕は、どうしたら!?


 もう未来に行けない!


 ……そんなっ……そんな……何が起こって……。


 何が起こっている……何が……。


 と、太陽が雲で隠れて暗くなった。


 ん? ……違う……。


 太陽が雲で隠れていたとおもったら、違う。


 ユーフォ―だ!


 太陽は、デカいユーフォ―で隠れている!


 ……どうでも良いよ!


 何で消えた。何で消えた、何で消えた……。


 これが終わって、金貨を使って、豊かに暮らすんだ。って言っていたの、どうするんだ……。


 なんで消えたんだ……。


 急に辺りがピカッと光った。


 なんだ? 何の光だ?


 轟音が響く。


 ……何だ……この音……。


 すさまじく嫌な予感がした、瞬間だった。


 爆風が僕を襲う。


 そこらの家の窓ガラスが粉々に吹き飛ばされる。


 あああああああ!


 立っていられない!


 しゃがみこんみ、蹲り、地面をがっしと掴む。


 ぐあああああああ!


 塵やゴミが吹き荒れる。


 息ができないっ。


 なんだ!? 何が!?


 そして爆風は、急にピタッとしなくなる。


 風が止んだ……?


 もうあたりには微風さえもない。


 何の音もしない。音もなくなっている。


 頭を上げると、青い空に大きな雲が立ち上っていた。


 なんだあれ?


 急いでアパートに戻る。


 部屋は、窓ガラスが粉々に砕け散って、僕風で物が散乱していた。


 なので土足で入てる。


 テレビをつけると、何も映らない。


 だいたい電気がつかない。部屋の電気もすべてだ。電気が止まっている。


 何事かと、町中に出た。


 さっき見た雲が、きのこの形になっている。


 あの雲は、核か?


 やばいな。


 なんで、これを教えてくれなかったんだ、未来の僕は。


 これも、僕が言うこと聞かなかったからじゃないよな。


 ……そんなわけないよな……。


 近所の人達が、皆、茫然ときのこ雲を眺めている。


 やがて、自衛隊と警察、消防の誘導で避難することになった。


 背負っているサバイバルグッズが役立った。

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