第7話


 急いでリュックを背負った。


 金庫を閉めドアに近づく。


 ドアに耳を押し当て、物音を確認した。


 ……音は、しない。でも開いたら見えるところにいるかも……。


 物音を確認しつづける。


 わからない、ぜんぜん音を聞いても開けて良いかどうかわからないっ。


 しょうがない……。


 ゆっくりドアを開いていく。


 さっとあたりを確認した。


 ラッキー、人はいない。


 キッチンの方で音がする。


 食堂の方でもだ。


 ラッキー、それなら玄関までの道は死角だ。


 音を立てず、できるだけ早く、落ち着いて廊下を駆け抜ける。


 無事、何事もなく玄関にたどり着く。


 ドアを開き、外に出て、閉めた。


 よし! やった!


 急いでエレベーターを呼ぶ。


 早く来い早く来い。早く来い早く来い。早く来い早く来い。


 何度も後ろを振り返っては、閉まっているドアを確認する。


 来た!


 開くドアが開ききるのを待たずにエレベーターに飛び込んだ。


 1階へ、1階へ1階へ1階へ!


 1階のボタンを連打する、閉まるボタンを連打する。


 1回に着き、マンションから大急ぎで出た。


 骨董屋へと、道を突っ走る。


 あとは、穴を潜る、それで終わりだ。


 この金貨で、いくらになるだろう。


 背負ったリュックが重い。


 でもこの重さはサバイバルグッズの重さだ。


 まぁ、あれだけの金貨なら一生暮らせる分にはならないだろうな。


 が、まぁ良い。


 これを繰り返せば良い。


 誰が僕を捕まえれる?


 未来で罪を犯し、過去に変えればいい。


 カンタン完全犯罪だ、ははは。


 ……あの石は、未来では普通だったりしないよな。


 そんな考えがよぎる。


 ……それはない、昨日の僕の反応を見れば、わかる。


 ははは、あの石を買おう。


 あの女の子にはもったいない。


 このタイムトンネル、もっとうまい使い方があるはずだ。こんな小金稼ぎではおさまらないぞっ。


 いろんな使い方を、帰ったらゆっくり考えよう。


 それで僕は金持ちだ!


 ウキウキしていると、骨董屋に到着した。


 骨董屋のドアを荒々しく開き、店の奥の工房へ駆け込む。


 そのままの勢いで、大石の穴に飛び込んだ。


 リュックが引っ掛かって尻もちをついてしまう。


「なんだよ、もう」


 背負ったままだと無理そうなので、一度降ろして、後ろ手で引っ張っていった。


 穴を抜けると、


「ふーーーーー、疲れたーーー」


 僕はここまで走ってきた疲労で倒れ込む。


 こっちの工房にも誰もいなかった。


「ふー。ふー」


 息を整えながら、戦利品を見る。


 リュックを開け、金貨の入った小箱を取り出した。


 紐が邪魔だな。何で紐なんかがついてるんだよ。


 小箱を開ける。


 しっかりと、中には金貨が詰まっていた。


 3センチぐらいか、その大きさの金貨が大量にある。


 あと、縦10センチ、横5センチぐらいの板状のもあった


「へへへへ」


 思わず笑みがこぼれる。


「あら、おかえりなさ……」


 ドアが開き、女の子が入ってきた。


「あっ」


 小箱のふたを閉め、リュックにしまう。


 女の子が、そのリュックを見て驚いた。


「なんでしょうか、そのリュックは……」

「……ああ、ちょっとね……」

「……お客様、こういう事は困ります……」

「何がですか?」

「持ち帰って来たのでございますよね」

「それが何か?」

「時代が違うものを、持ってきては……どなたの物なのでございますか?」

「えっ、それはね、未来で僕に会いに行って、そこであ――」

「――嘘でございますね」


 言い終わらない内に、判然と言ってきた。


「なっなんでですか?」

「反応を見ればわかりますとも、盗みでございますか?」

「違いますよ」

「お客様、では、今すぐ返しに行ってくださいませ」

「返すって、そんなこと言っても……。良いじゃないですか。あの、買いますよ、この石。気に入ったんです、この石ください」

「申し訳ございません、お売りできません」


 目を瞑り、判然と言ってきた。


「なぜです……」

「お客様には、お売りできかねます」

「なっなんで……」

「そして、今後、この店には立ち入りを禁止いただきます」

「そんなっ、これを持ってきたぐらいで」

「申し訳ございません、お客様は信用できかねます」

「信用っだって?」

「はい、今すぐその荷物を置き、そして店から退出願います」

「どうして?」

「あなただから特別とシャラナも度が過ぎたことをしたようです」

「これは僕のリュックなんだ」


 リュックを背負い、立ち上がる。


「あなたはまだわかっておりません」

「良いかげんにしてくれよ」


 女の子は仁王立ちで、僕の前に立ちふさがった。


「ちょっと、なんなんです」

「では、早く荷物を置き出て行ってくださいませ」

「何で置いておかなきゃ」

「シャレナが、ちゃんと返しておきます」

「そんな、横取りする気じゃ」

「お客様と同じにしないでくださいませ」


 なんだ、こいつ!


 こんな、せっかく、手に入れて、完全犯罪なんて楽勝だってのに!


 こんな事で!


 こんなやつに邪魔されてたまるか!


 リュックの、サバイバルナイフを手に取る。


 女の子は仁王立ちでいる、ははは、隙だらけだ!


「お客様なにを!?」


 ナイフをぎゅっと握り、女の子に向かって突進する。工房に僕の荒々しい足音が木霊する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る