第6話


 潜り抜けると、やはり女の子はいない。


 あの女の子は、この未来では何してるんだろう?


 この店にはいないのかな、たまたまいないだけか?


 音のしないシーンとした工房を出ていく。


 なんでも良い、早く向かおう。


 外に出て、記憶を頼りに、前に行った未来の僕のマンションへと徒歩で向かった。


 国道に出て、こっちに行ったはず。


 まっすぐ行ったはず。


 こっちだ、間違いない。


 景色は変わっていなかった。


 まぁ僕が成功するかどうかで街の再開発の考えは影響しないだろうから、景色が変わるはずないんだが……。


 車が1台も通っていない道を、小走りで20分ほど行った所で、あのマンションにたどり着いた。


 マンションの前に清掃会社のトラックが止まっている。その陰からマンションを望む。


 これだ、間違いなくこのマンションだ。


 僕の住んでるところだ。


 住んでいた、所にはなっていないでくれ。


 さて……僕はいるのか尋ねよう。


 ポケットにある、カードキーを取り出した。


 入口のリーダーに入れる。


 と、すぐに入口が開いた。


 よし、開いた、ということは大丈夫という事か。


 早速中に入ろ――


 ――あ!? 僕じゃないか!?


 歩き出そうとした僕の目に、僕の姿が飛び込んできた。


 何か、デカい荷物を背負っていて、それに気をつられて僕に気が付いてない。


 そんな事より……作業着姿?


 なんであんな……。


 おもわず物陰に隠れる。


 僕は薄汚れた作業着姿で、マンションの前に止まっていたトラックに乗り込み、去っていく。


 物陰に隠れ、車が視界から消えるまで、ぼんやり見つめた。


 ……これは……つまり……。


 暗い気持ちになる。


 ……未来は変わったのか? なんであんなトラックに?


 とてもじゃないが、金持ちになれる職業じゃない……。


 ……でも、カードキーは開いたぞ。


 カードキーを見る。


 ……待てよ……。


 このカードキーの方は、変わってないんじゃないのか?


 僕は、変わってしまったが、街は変わらない。


 僕から貰ったカードキーも、この未来でも変わらず使える、という事か? それなら理屈も会う。


 僕じゃない誰かが住んでる、最上階のあの部屋に、行ける。


 行って何する?


 泥棒だ。


 捕まるぞ?


 どうやって捕まえる事ができるんだ。


 盗んで、あの穴で過去に逃げたら良い!


 捕まることなんてありはしない!


 心は駆られて、マンションの入り口へと歩み寄る。


 もう、これしかない。


 もう未来は変わって、僕は未来でも貧乏なら、もう、こうでもするしか、ない。


 わざとスタスタ、ひょうひょうと歩いて、エレベーターに乗り込んだ。


 最上階を目指す。


 ぐんぐんエレベーターは昇って行き、あっという間に到着した。


 扉が開き、フロアに一つしかないドアが目の前に現れる。


 ドアに歩み寄った。


 カードキーを取り出す。


 リーダーに差し込んだ。


 ……開く……ははは……。


 ドアは開いた。


 中は、どうだ。人なんていないよな……。


 恐る恐る中を覗き込む。


 中は真っ暗で、人気がなかった。


 ……誰もいない……。


 よし! 金目のものはどこだ! どこに置いている!


 そこら辺の棚という棚、引き出しという引き出しを開いてみていった。


 何もない?


 これと言って、高値になりそうなのがない。


 猫の置物ばかりだ。なんだこれ。


 寝室に来た。


 部屋全体を見回す。


 壁に埋め込まれたテレビ、壁は全て収納になっているっぽい。


 引き戸の取っ手みたいなのが、たくさんあった。


 その壁側の、一番下の真四角の扉が開いている


 そこに、鉄製の四角い箱があった。


 金庫か?


 ははは、それ以外なんなんだ。


 金庫に近づくと、取っ手の横に四角いでっぱりがあった。


 鍵を差し込む場所も、ダイヤルも何もない。


 ……くそ、こんな……。


 金庫は、指紋照合式だった


 そんな……。


 ははは、何を考えてんだ。


 落ち着け、たとえダイヤル式でも開けられるわけないだろ……何を金庫で喜んでるんだ……。


 他を探さなくては……こう、実際やってみると泥棒に入っても盗むものなんてないものなんだな……。


 まったくこんなもの……。


 四角いでっぱりに、ふざけて人差し指で触れてみた。


 緑色の光が出てきてスキャンしだす。


 そして、


――ピッ、ガチャンッ。


 一瞬で緑色の光がなくなると、金庫から、そんな音がした。


 ……何だ……今の音……。


 しばらく、佇んで金庫を見る。


 ……何の……音……だ……?


 音がした理由がわからなかった。


 何だあの音は、まるで……金庫が開いたような……音……。


 ゆっくり取っ手に手を掛ける。


 まさか……そんな、なんで?


 力を籠め、取っ手を引いた。


 鉄製の重い扉が動く。


 ……リュックサック?


 金庫の中に、デカいリュックサックがあった。


 なんだこれ?


 テントまで丸めて搭載している、本格的な奴だ。


 リュックを外に出すと、金庫は空っぽになる。


 なんでこんなものが……。


 ……中を見てみるか……。


 案の定、リュックの中はサバイバルナイフだの、水をろ過する道具だの、サバイバル用具が入っていた。


 とそれに交じって、リュックの内部に紐で固く括り付けられている木箱があった。


 中身は、これ以外ない。


 これもサバイバル用具かな? 開けてみよう。


 小箱の金具を外し、開いてみると、中には、金貨が詰まっていた。


 ……。


 ……本物だよな……。


 1枚手に取って見てみる。


 鑑定させてみなくちゃ……いや、偽物をこんな所にしまっておくはずない。


 しかしなんで開い――


 ――物音!?


 玄関の方から音が聞こえる!


 帰ってきた!? こんな早く!?


 帰ってきたのは僕か? いやでもさっき……。


 どうでも良い、盗みに入ってるんだから、どっちにしろ逃げなくちゃ。

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