第4話
先導する未来の僕に、少し戸惑いながら僕はついていった。
アパート前に止まっていたリムジンの運転手が、颯爽と降りてきて、僕らのためにドアを開けた。
未来の僕と一緒に乗り込み、リムジンは出発する。
やがてリムジンは、住宅街を一度も止まらず走っていった。
この運転手、左右の確認なんて何もしやしない。
広い道に出た。
そんな!?
窓から見える景色に、開いた口が塞がらない。
このあたりの風景は、様変わりしていた。
デカい工場が立ち並んでいる。
「こんな発展するの!?」
「うん、まぁね」
車が僕ら以外、走ってない。
リムジンはぐんぐんスピードを上げていく。
ケータイを取り出して、見てみた。
日付が10年後になってない。
「ケータイは変えたぞ。それは使えない」
「そうなのか」
リムジンは、ここらで一番背が高くて横幅も広いどでかいマンションの敷地内へと入っていく。
未来の僕は、
「ここに住んでる、降りるぞ」
「こっこんな所にっ」
運転手がドアを開け、僕らはマンションへと向かった。
未来の僕は、入り口の観音開きのドアをカードキーで開ける。
きょろきょろしながら、僕はその後をついて行く。
左右に何個も並んでいるエレベーターのひとつに乗り込んだ。
エレベーターはぐんぐん昇って行く。
止まる気配がない、どこまで行くんだ?
最上階で止まったエレペーターを下りると、ドアがひとつしかないフロアに出た。
「この階、全部が僕の家だ」
「ほぅ……」
未来の僕はドアをカードキーを使って開けた。
僕も続いて中に入ると、大理石が敷かれただだっ広い空間の、拭き向けの天井にシャンデリアが吊るされている。
……ああ……。
きらめくシャンデリアを見て、眩暈がしてしまった。
ふらつく足をぐっと踏みしめる。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
と、漫画でしか見たことないような恰好のメイドさんが2人現れ、僕らにお辞儀した。
……頭に猫耳をつけている……。
どういう事だ。こんなカッコさせて、良い趣味してやがる……ああ、僕だからか……。
「コーヒーを。お前もそうだな」
「え? ああ、うん」
「かしこまりました」
メイドさんがお辞儀して去って行く。
「こっちへ来い」
未来の僕は、首相が集まって会合が開かれる時用みたいなデカいテーブルが、どでんと鎮座している部屋に先導してきた。
どでかい窓からは、このあたりを一望できる。
すごいな、見える景色すべて工場だった。
何の工場だ、こんなデカいなんて……。
そのテーブルの隅に、2人並んで座る。
と、すぐにメイドさん達がコーヒーを運んできた。
未来の僕が、幸せそうにコーヒーの匂いを嗅ぎ、一口すする。
僕は、たまりかねていた。
「ねぇ」
「ん?」
「いったい、どうなってるんだ? なんでこんな……」
「ふふふ」
「なんでこんな事態に、金持ちになってるんだ? 何をしたんだ? 早く教えろよ」
「……」
僕の問いに、未来の僕は意味深に微笑むだけだった。
「……お前にこれから何があるか、いうわけにはいかない」
「……なんでだよ?」
「言ったら何かが変わるかもしれない、知らないまま進むのが一番だよ未来なんてものは……あんな恐ろしい物は……。実際僕は聞いてないしな」
「株とか競馬で何が当たるかとか、商売で何が当たるかとか、教えてくれないのか?」
「……意味ない。話せることだけ、話すよ」
「? なんでもいい、教えてくれ、何したんだよ」
「言われた通りにするんだぞ」
「わかってるよ」
「まず、これからお前が帰った時、店にいる女の子を殺せ。そして駅前で裸になれ」
「……む……?」
言葉を失う僕を見て、未来の僕は、
「じゃあな、話せるのはこれだけだ。ここのカードキー持ってけ、これがあればここに入れる。全部終わったらまた来い」
と、カードキーを差し出す。
「何を、言って……」
「早く受け取れ」
「そんなこと、できるわけ……」
「逮捕なんてされない。女の子の死体は庭に埋めろ、それで良い」
「……そんな……」
「やるんだ、僕もした」
「なんでなんだ、何でしなくちゃいけない。その理由を教えてくれ、じゃないとできないよ」
「知らなくて良い事だ」
「どういう意味だよ」
「その理由は行ったはずだ、知らないまま進むのが一番なんだ」
「言ってくれよ、じゃないとできない」
「うるさい!」
急に怒鳴ってきた未来の僕に、僕はたじろいでしまった。
「いいか、殺すんだぞ!」
「いやだよ!」
「ふんっ、金持ちになりたくないのか!」
僕は、殺せとか裸になれとか言う未来の僕に逆らった。
が、殺さなくてはいけない理由も、どうやって財産を得たかも、未来の僕は何も教えとくれない。
1時間うるさく言う僕に、ついに未来の僕は辛抱切れたように、
「まぁ、そうだった……僕もこんな感じで抗った……でもした。この会話自体が無駄だ……」
「何をぼそほぞ言ってるんだ」
「うるさい、もう出て行け! おい!」
未来の僕が、メイドさんを呼んだ。
「警備員を呼んで。この男を外に出すよう言って。そしていきさきは○×町○×アパートだ、車に乗せて送らせて」
「出て行かせる気なのか!」
「そうだ、そしてとっとと殺してこい。そして駅で裸になれ、忘れるなよ」
「だから、そんな事!」
僕らはまた、言い合った。
そうするうちに、命令を受けた警備員が3人もやって来る。
力づくで僕はカードキーを持たされ、マンションの外に叩き出されてしまった。
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