読者からの手紙 1

月刊〇〇〇〇編集部御中


急なお手紙ですみません。

私、鳥取に住む大学生の〇〇〇と申します。


実は助けていただきたくてご連絡しました。

おかしな男に追われているんです。


前に、●●●●●について書かれた記事を読みましたので、そちらなら何かご存知じゃないかと思いまして、こうして手紙を書いています。

ちょっと長くなりますが、最後まで読んでいただき、どうすればいいか教えてください。


今年の8月あたりだったと思います。

大学の夏休みに私と私の彼氏、共通の男友達の3人でドライブに行きました。どうせなら目的地を心霊スポットにしようってことで、●●●●●のほうに行くことにしました。雑誌でもたまに紹介されてますから。


でも、夜に行くのはさすがに怖かったので昼間に行きました。

あのあたり、幽霊団地(マンション?)とか幽霊屋敷とかいっぱいあると思うんですが、昼間はそれなりに人もいて全然こわくありませんでした。

自殺で有名な5号棟行ったり、幽霊屋敷を外から覗いてお札探したりしたんですけど特に何も起きませんでした。


山を越えた向こうの●●●●●にも、有名な自殺スポットのダムがあるからそこに行こうって話になって、車で移動することになりました。

そのときは、車はちょっとした山道を走っていました。彼氏が運転していて私は助手席に座っていました。

対向車がきたんです。二車線の道でしたが道幅も広くなかったのですれ違うときにスピードを落としました。

私はなんとなく対向車線の車を見てたんですが、運転してる男の人がこっちに向かって何か言ってるみたいでした。当然声は聞こえないので何を言ってるのかはわかりませんでしたが、運転してる彼氏ではなくて私を見ていたのが気になりました。


結局その後、ダムに着いた頃には暗くなってしまっていたので、降りて散策するのは怖くなってしまいました。

なので、そばの国道を走ってダムを見ながら帰りました。

鳥取に着いた頃にはもう深夜でした。


それからなんです。


次の日、別の友達と大学の近くのお店で飲み会をしました。

そのお店は飲食店がたくさん集まってる通りにあって、夜は大学生や仕事帰りのサラリーマンで通りにかなり人が多くなります。

夜の9時ぐらいに一旦場所を変えようってことになり、店の前でみんなで「次どうする?」って相談をしていました。

私もその輪の中で、友達と話してたんですが、友達が「あれ、だれ?」って言ったんです。

友達が指さしたのは私たちがいるところからちょっと離れたお店とお店の間のすごく細い路地でした。

その路地から無表情な顔だけ出して、こちらのほうに向かって何か言ってる人がいました。


あの男だったんです。


私怖くて。その後すぐに友達が見に行ってくれたんですが、誰もいませんでした。


友達から「似ている人を勘違いしただけだよ」って言われて、私もそう思うようにしました。


それから多分1か月後ぐらいだったと思います。

また、あの男を見ました。


夕方ぐらいに大学が終わって一人暮らしのマンションに帰ってきたときでした。

鍵を開けて家に入ろうとしたとき、隣の部屋のドアが開いた音がしたんです。


隣の人はこれから出かけるのかな? と思って挨拶しようとしたら、男の顔がぬっと出てきて、顔だけこちらに向けました。


またあの男でした。


私に何か言おうとしてたみたいですが、怖くてすぐにドアを閉めて鍵をかけました。

その日は友達に泊まりに来てもらいました。

私の家は女性専用マンションなんです。お隣さんは私が入居したときから一人暮らしの女性でした。


もちろん警察にも通報しましたが、その時間お隣は友達と家にいたらしく、私の勘違いだということになりました。


それから数日後のことでした。


その日は大学の講義の合間にお手洗いに行ったんです。

休み時間はトイレが混むのですが、研究棟のトイレが空いてるので私はよくそこに行っていて、そのときも個室はひとつも埋まっていませんでした。


3つあるうちの一番奥の個室に入りました。

用を足して出ると、隣の個室が閉まっていたんです。

誰か入ってくるような音も聞いてないですし、すごく嫌な予感がしました。


急いで通り過ぎようと足を踏み出したとき、目の前で個室のドアがゆっくり開いて男の顔がぬっと出てきました。それまで無表情だった男の顔がニヤーっと笑顔になりました。


「またきてくださいねえ」


私がその個室の前を走り抜けるときそう言っていたような気がします。

悲鳴を上げていたので自信はありませんが。


それ以降、男を実際に見ることはなくなりました。

でも、夢に出てくるようになりました。


その夢の中では私は夜の山道を登っています。

背の高い木がたくさんしげっていて、月の明かりもほとんど届きません。

私は、山道に敷かれた古い階段を登り続けています。

階段の両脇には石灯篭がぽつぽつと立っていますが、たいてい倒れています。

階段の終わりには傾いた鳥居が立っています。


男はその鳥居の下で私を待っています。

大きな口を開けて。


怖いのは、夢の中で私が怖いと思っていないことです。

夢からさめた後も心地よい気分になってしまいます。


私は呪われてしまったのでしょうか。

あの男はいったい何なのでしょうか。


助けてください。




※末尾に編集部によるものと思われる手書き

「2004年10月5日編集部宛着、送り主の連絡先不明のため、取材不可能。掲載保留」






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る