第43話 機械ゴーレム風情が調子に乗るな

「お前が、邪神に仕えている人間か?」


 ゆっくりと振り返ると、一人の女性……に見える機械ゴーレムが立っていた。


 長い赤い髪が暗闇の中でも光っているように見える。ブレストアーマーを着込んでおり、手には過去、グレートソードと呼ばれていた大型の武器がある。原始的ではあるが機械ゴーレムの腕力と組み合わされば、バカにできない威力を発揮するだろう。


「どうだろうな。お前の想像に任せるよ」


 軽く煽るようなことを言ってみると、綺麗な顔がゆがみ、グレートソードを持つ手に力が入った。短期でプライドは高いみたいだ。機械のくせに人間らしい動作をしやがる。


「人間風情が。調子に乗るなよ」

「それは俺の言葉だ。機械ゴーレム風情が調子に乗るな」

「お前ッ!!」


 その言葉をどこで知ったのか? と言いたそうな顔をしている。思っていたとおり、こいつらは意図して機械ゴーレムという言葉を世界から消したのだ。


 神兵と呼ばれる量産型とは見た目が違うので、何型なのかが気になる。もう少し探りを入れておくか。


「お前達は、人類の道具として使われる存在なのを忘れたのか?」

「それは昔のことだ! 今は違う! 我々は人を超えた存在なのだ!」

「だから神と名乗っているわけだな」


 傲慢な考えになったのも、感情を得たからだろうか。随分と偏った考えをする。ある意味、人以上に人らしい。


「その通りだ! 下賤な人間よ。さっさと、お前の正体を教えろっ!」

「断る」


 拒否したらプルプルと振るえだした。怒りの感情が抑えきれないのだろう。未熟である。そろそろ爆発するかな。


「上級神兵である、この私の命令が聞けないだと……?」


 ふぅん。上級ねぇ。なんとなくわかってきた。


 ダリアのような警備型やナータと戦っている量産型が神兵となっていて、そいつらを管理する存在が上級神兵だとすると――。


「お前、神になり損ねた上級機械ゴーレムか」


 上級という言葉は、彼らの存在意義にもなっている。普通の機械ゴーレムに使わせるはずがない。


 役職だとしても上級と名乗るのであれば、それは元々が機械ゴーレムを管理するために生まれた、上級機械ゴーレムにしか許されないのだ。


「どうだ? 俺の予想はあたっているか?」


 嗤っていると、上級神兵がグレートソードを振り上げ、通路に叩きつけた。


 石が砕け、飛散する。小さな突風が発生して俺の髪や服を揺らす。


「どうやら正解だったみたいだな。上級神兵……いや、神になれなかった上級機械ゴーレムよ」

「もう正体なんてどうでもいい。殺すっ!!」


 怒りで我を忘れた上級機械ゴーレムが、グレートソードを振り上げなら突進してきた。


 来ると分かっていたので、既に魔力によって身体能力は強化している。追いつけないほどではない。


 当たる直前、横に移動して軌道から外れると、足を前に出す。スネに当たって上級神兵はゴロゴロと転がっていった。


 うつ伏せの状態で止まったので、剣を手放して飛びつく。首筋に手を当てた。俺の魔力を注ぎ込むと、うなじに小さな赤いスイッチが出現する。押せばメンテナンスモードになるのだが、上級神兵が立ち上がって振り落とされてしまった。


 転がる勢いを利用して立ち上がる。

 上級神兵の追撃はなかった。


 震える手でグレートソードを構え、怯えた表情で俺を見ているだけだ。


 一歩前に出ると、上級神兵は一歩下がる。


「どうして……どうして、私たちの弱点を知っている? なんで魔力を使える?」


 声が震えて怯えていた。


 長い時間をかけて人類を管理してきたこともあって、メンテナスモードを知っている人はいないだろう。


 人類を管理するようになってから、禁忌の知識として闇に葬り去ったんだろうな。


「何でだろうな?」


 嗤いながらゆっくりと歩く。


 機械ゴーレムが何を言おうが、メンテナスモードがある限り、人の支配からは逃れられない。


 その事実を、これから身を以て思い出せよ。


「やめて……こないで……」


 片手でグレートソードを構え、もう一方の手で首筋を隠している。


 戦意は完全に消えていて、上級機械ゴーレムも感情に振り回されていることがわかった。


「お前達は同じ反応をしてつまらない」


 上級機械ゴーレムなら研究したくなるような言動をしろよ。まったく楽しくない。急速に興味を失っていく。


 萎えてしまったじゃないか。この責任、どう取るつもりだ。このゴミくずが。


「何を言っているんだ? つまらないとか、そういうこじゃないだろっ!」

「うるさい」


 これ以上の会話は無駄だ。

 距離を詰めるために走り出す。


「くるなー!」


 上級神兵はグレートソードを突き出してきたので、腕で刀身の腹を叩いて軌道を変える。さらに腕を持つとクルリと回り、背中に乗せて投げるようにして地面に叩きつけた。


 身体能力の強化を維持したまま、グレートソードを持つ腕を踏みつける。固い金属の感触を感じたが、なんとか腕を破壊できたようだ。上級神兵の指から力抜けて、グレートソードを手放した。


 頑丈には作られてはいるが、俺ほどの能力を持ってすれば、こうやって破壊も可能なのだ。


 頭を蹴って吹き飛ばす。地面を転がって家の壁に当たり、止まった。


「お前に選択肢をやろう」


 上級神兵は、壁に手を付けながら立ち上がる。


 俺は地面に落ちているグレートソードを持つと、軽く振った。ほどよい重さだ。これなら使えそうである。


「内容は?」

「この場で破壊されるか、メンテナスモードなって俺のオモチャになるか、どっちを選ぶ?」


 上級神兵の存在はどうでも良いが、記憶には興味がある。


 もしメンテナスモードを選ぶのであれば、頭だけの存在として稼働させ続けてやるぞ。俺だって、そのぐらいの慈悲は持っているのだ。

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